トルーマン・カポーティやノーマン・メイラーらと並ぶ米文学のスターで、「20世紀のオスカー・ワイルド」とも呼ばれたジュリアン・バトラー(1925~77年)。妖艶なたたずまいと奔放な言動、過激な作風でメディアをにぎわす一方、その私生活は長く謎に包まれていた。本書は、生前の彼をよく知る覆面作家、アンソニー・アンダーソンによる回想録の邦訳。
<以下ネタバレ>
……という体裁で、巻末の参考文献まで徹底して作りこまれているが、ジュリアン・バトラーなる作家は存在しない。本書は、作中に訳者として登場する文芸評論家、川本直氏による小説だ。
ジュリアンは48年、当時はまだタブーだった同性愛を描いた小説でデビューした。語り手のアンソニー・アンダーソンことジョージ・ジョンは、彼の親友であり、恋人であり、さらにゴーストライターでもあった。
同性愛に不寛容だった時代を生きた同性愛者の愛の物語であり、米文学華やかなりし頃を描いた文学についての物語であり、「小説」や「書くこと」の本質をめぐる物語でもある。
何重にも仕掛けの施された奥行きのある作品だが、難しいことは考えずとも、カポーティやメイラー、ウォーホルら、実在の人物とジュリアンが繰り広げるドラマを追うだけでも十分楽しい。米文学ファンは必読。