時をかけるゆとり

朝井リョウ「時をかけるゆとり」

「何者」で、23歳という若さで直木賞を受賞した著者のエッセイ集。執筆時期は現役大学生だった頃から、直木賞受賞直後に書いたものまで数年間にわたっている。

自転車旅行や就活の話など、内容的にはリア充(?)大学生の日記(しかも自虐風自慢多め)という感じだが、文章の巧みさと観察眼の鋭さ(この観察力は「何者」を読むとよく分かる)で非常に楽しい一冊になっている。腹の弱さを嘆き、美容師と格闘し、見通しの甘さで旅行をふいにする。大学生らしいバカバカしいエピソードの一つ一つに、吹き出したり、にやにやしたり、かつての自分の姿を思い出して赤面したりと、身近な話として引き込まれた。

自分を「ゆとり」と揶揄する客観性があり、しかもその上で「ゆとり」を余裕たっぷりに演じてみせる作家性もある。眩しいほどの才能で、この軽やかな筆が今後30代、40代になってどんな作品を書いていくのかが非常に楽しみ。

ゆるーく楽しめるエッセイだが、唯一の注意点として、人が楽しんでいる姿に嫉妬を感じるタイプの人は手に取らない方がいい。

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