海の鳥・空の魚

鷺沢萠「海の鳥・空の魚」

「どんな人にも光を放つ一瞬がある。その一瞬のためだけに、そのあとの長い長い時間をただただすごしていくこともできるような」

忘れられない一瞬、それもドラマティックな場面ではなく、自分でもなぜその場面を繰り返し思い出してしまうか分からないような瞬間を切り取ったような、鮮やかな短編集。

海の鳥、空の魚。自分が間違った場所にいるような生きづらさを感じながら日々を過ごしている人は少なくないだろう。著者はあとがきで、海に放り投げられた鳥、空に飛びたたされた魚のような人生を送る人々に「間違った場所で喘ぎながらも、結構生きながらえていっただろう」と心を寄せる。

短編というより掌編というような短い作品ばかりだが、日常の一コマを切り取った平易な文章の中に、ひりつくような感受性がのぞく。この鋭敏な感性を抱えて生きるのは苦しいだろう。著者は18歳でデビューし、35歳で命を絶っている。

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