わが母の記

井上靖「わが母の記」

80歳の母を描いた「花の下」、85歳の「月の光」、89歳の死去までを綴った「雪の面」。随筆のような小説。

人生を消しゴムで逆になぞるように、家族のことを忘れ、幼くなっていく認知症の母。自らと母の周辺の出来事だけを綴り、過剰な描写も昔語りも無い静謐な文章。

決して冷たくは無いこの静けさは、井上靖自身が母の死の先にある自らの死を見つめているからだろう。

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