一言で説明するのは難しい。明らかに震災と原発事故を踏まえて書かれた作品だが、時系列も視点もあえて混乱させた多声的な文体で、日本の戦後史そのものを問う物語となっている。
“ヤマネコ・ドーム” の続きを読む
ファーストラヴ
第159回(2018年上半期)直木賞受賞作。
父親を殺した容疑で逮捕された女子大生、聖山環菜と、彼女についてのノンフィクション執筆を依頼された臨床心理・真壁由紀、その義弟で環菜の弁護人・庵野迦葉を軸に物語が進む。
“ファーストラヴ” の続きを読む
12万円で世界を歩く
下川裕治「12万円で世界を歩く」
「12万円で世界を歩くリターンズ」
近年、旅の景色は大きく変化した。
名著「12万円で世界を歩く」が刊行されたのは1990年。東南アジアからアメリカ、シルクロード、ヒマラヤまで、毎回、往復航空券代含め12万円で世界各地を旅するという雑誌の企画で、著者の旅行作家としてのデビュー作でもある。
“12万円で世界を歩く” の続きを読む
楽園
宙の家
先日発表された直木賞を受賞した作家の単行本デビュー作。
(本作ですばる文学賞最終候補に残り、その後に文学界新人賞受賞)
マンションの11階で、祖母と母、弟と暮らす女子高生、雛子の物語。
“宙の家” の続きを読む
日本の中のインド亜大陸食紀行
インドの食文化について書かれた紀行本やレシピ本は珍しくないが、本書のテーマは“日本の中のインド食文化”。アジア食器などの輸入販売を手がけている著者は、各地のインド料理店や食材店を巡り、異国に根付き、変化していく食文化を追う。
“日本の中のインド亜大陸食紀行” の続きを読む
宿六・色川武大
空、見た子とか
野田秀樹の初の長編小説。戯曲と同じく、要約は不可能。荒唐無稽で叙情的な叙事詩。言葉遊びがふんだんに盛り込まれ、話はあらぬ方向に進んでいく。何かを語るために言葉があるのではなく、言葉そのものが自律的に走っているよう。
“空、見た子とか” の続きを読む
最終便に間に合えば
直木賞受賞作。手練れの恋愛小説。表題作は、かつて恋人だった男女が再会した夜の微妙な空気を描く。互いに若い頃より社会的な立場が上がり、優越感と郷愁が入り交じる、その微妙でいやらしい緊張感が著者の真骨頂。
“最終便に間に合えば” の続きを読む