井上章一「増補新版 霊柩車の誕生」
霊柩車はいつから、なぜ使われるようになったのか、どうしてあのデザインになったのか、という疑問から葬送の近代史を綴るスリリングな論考。
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読んだ本の記録。
井上章一「増補新版 霊柩車の誕生」
霊柩車はいつから、なぜ使われるようになったのか、どうしてあのデザインになったのか、という疑問から葬送の近代史を綴るスリリングな論考。
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色川武大「離婚」
連作とも言える私小説的な短編4本。離婚した後も別れきれない男女の姿を描く。
奔放で依存的な妻と、保護者のようでいて常に一歩引いた場所にいる夫。人生や男女関係を達観して色々なことを諦めているようで、同時に執着も捨て切れない。
この二人ほどでなくても、多かれ少なかれ、人間関係にはこんな面があるのでは。理性的な夫に共感する人もいるだろうし、だからこそ卑怯だと妻に共感する人もいるだろう。
著者の作品は、阿佐田哲也のイメージしかなかった頃に「狂人日記」と「百」を読んで驚嘆したが、直木賞受賞作のこれも良い。文体は静かで文学的な印象を受けるが、内容は喜劇と言っても良い面白みがある。この作品は特に。
ユージン・オニールの自伝的戯曲。麻薬に溺れる母、卑小な父、自堕落な生活を送る兄、母の麻薬中毒の原因ともなった病弱な弟=作者。四人それぞれが、心の底から人を恨み、自分を憎んでいる。
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ミチオ・カク「パラレルワールド ―11次元の宇宙から超空間へ」
宇宙論入門。始まりのゆらぎから、遥か未来の宇宙の終焉まで。量子論、相対性理論、ひも理論を丁寧に解説しつつ、SF小説や古典など大量の文芸作品を引用していて、著者の博識ぶりに驚かされる。
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扇田昭彦「才能の森 ―現代演劇の創り手たち」
寺山修司、唐十郎から、井上ひさし、安部公房、野田秀樹、杉村春子や朝倉摂まで24人。長く演劇の取材をしてきた著者だけに、それぞれの演劇人の人柄まで伝わってくる文章。
特に印象に残ったのが、多国籍の俳優による舞台に70年代から取り組んできたピーター・ブルックの言葉。
「演技の命は相違だからです。(中略)非常に異なった人たちが一緒に芝居をしているのを見ると、観客の中にある何かが、単純な形で開かれるのです。このため観客は、人と人との違いを喜びとともに味わうことができます。これは人種差別の逆です。人種差別とは憎しみをもって人と人との違いを見ることが基本にありますからね」
今でこそ、映画でも舞台でもキャストの多様性が珍しくなくなったが、その先駆性に驚かされる。憎しみをもって違いを見る、差別の本質をこれほど簡潔に言い表した言葉はない。