岸惠子「わりなき恋」
古希の女性と還暦の男性の恋愛小説。著者自身が投影された主人公は、自分の人生経験に絶対的な自信があって、それ故に成熟できていない。綺麗ごとは、ある時には、他人の目に醜悪に映る。年も性別も性格も違う自分は全く共感できない作品だけど、見たくないものを見せられたような強い印象が残った。
読んだ本の記録。
山本周五郎「ひとごろし」
勝ち目のない強敵を、遠巻きに精神的に追い詰めていく。臆病侍の上意討を描く表題作の「ひとごろし」はユーモアがあって、どことなく風刺も効いていて面白い。
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末木文美士「日本宗教史」
記紀神話に始まり儒教や思想にも触れていて、どのように日本人の“古層”が形成されてきたか、日本精神史とも言える充実した内容。
個人的に、仏教と神祇信仰は二本柱のように独立して存在し、その中間に神仏習合の領域があると考えていたが、実際には両者は互いに影響しあい、大きく変容してきた。特に日本古来の伝統と考えられがちな神祇信仰が、仏教の影響で形成されてきた過程が興味深い。
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本谷有希子「生きてるだけで、愛。」
登場人物の行動やセリフの立ち方はさすが劇作家の作品という感じ。主人公の女性を演技力のある女優が演じたらそれだけで面白いだろう。
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岩井秀人「ヒッキー・カンクーントルネード」
初めてハイバイの舞台を見た時、演劇ってこんなに面白いのか、と思った。
ハイバイは決して奇抜で新しいことをしている劇団ではないが、舞台に小説や映画では表現し得ない奥行きが感じられた。
そのハイバイを主宰する岩井秀人の初小説。再演を重ねている劇団代表作の小説化で、原作の面白さは折り紙付き。そこに小説ならではの面白さも加わった。
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安丸良夫「神々の明治維新 ―神仏分離と廃仏毀釈」
明治新政府が進めた神仏分離政策は日本人の信仰を大きく歪めたはずなのに、それについてまとめた書物は少ない。日本史の授業でもほとんど習わない。それぞれの寺社にとっても誇れる歴史では無いから語られずに来たのだろう。廃仏毀釈の嵐も今となっては全体像を掴むのは困難となっている。
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