吉川潮「芝居の神様 島田正吾・新国劇一代」
98歳で亡くなる直前まで芝居に生きた島田正吾の評伝。澤田正二郎の急死から、島田・辰巳柳太郎の二人による黄金期、緒形拳の退団を経て、後継者の不在、低迷、解散に至るまで新国劇の歴史を描く。
解散と辰巳の死去後、島田は新国劇の代表作を一人芝居にアレンジして上演を続けた。生涯を捧げた、という表現がこれほどふさわしく、魅力的な人はいない。
読んだ本の記録。
小林よしのり、中森明夫、宇野常寛、濱野智史「AKB48白熱論争」
メンバーの名前すらほとんど分からない立場で読むと、引いてしまうくらい熱のこもった対談(褒め言葉です)。
推す=成長を眺める楽しみは劇団など他の集団でもあるし、序列システムなどの完成度は宝塚の方が高いだろう。それでも、人気と金の相関性を隠そうとしない、それによってかえってオープンな公平性が保たれているというところに戦略の新しさがある。金で買える1票の方が思いが込められるとの言葉は民主主義の逆説として面白い。
AKB以前のアイドルグループが“一部を見せる”というフェイクドキュメンタリーだったのに対し、そういった作り込みをしないでソーシャルメディアに物語作りを委ねてしまうという根本的な違いにも気付かされた。
ドナルド・キーン「能・文楽・歌舞伎」
圧倒的な知識とそれに基づく理解の深さ。能の解説書などで、「幽玄」といった概念は曖昧な説明になりがちだが、原文が英語で書かれているためか、西洋的・分析的な考え方に染まってしまった現代日本人にも分かりやすく書かれている。初心者にとっては最良の概説書だろう。
著者の生き方を見ていると、文化とはただそこにあるものではなく、選び、学び取っていくものだと感じる。
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ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソン「知の逆転」
ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックスの3人のインタビューは刺激的でとても面白い。
テクノロジーの変化が加速し、社会における高齢者の役割が不明確になってきている。資本主義という概念は空虚で、多くの新技術は経済の公共部門から生まれ、最も市場原理に純粋な金融こそ最も機能不全に陥りやすい。音楽は他の記憶よりも深く脳に残されている……などなど。
残りの3人のインタビューは、それぞれの専門分野の話にうまく切り込めていなくて少し物足りない印象。そして専門外の話は少し説教臭い。
古川隆久「昭和天皇 『理性の君主』の孤独」
昭和天皇関連の資料は近年明らかになったものが多く、それらの研究を踏まえた丁寧な一冊。立憲君主制と国際協調、徳治主義を理想とし、それ故に孤独に悩んだ一生がはっきりと浮かび上がる。
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宮島直美「宝塚ファンの社会学 スターは劇場の外で作られる」
「社会学」と題しているけど、ほとんどがファンクラブの仕組みと“掟”の解説。しかし、それが面白い。
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