宇宙は本当にひとつなのか ―最新宇宙論入門

村山斉「宇宙は本当にひとつなのか ―最新宇宙論入門」

暗黒物質とは。異次元とは。宇宙の何が分かっていて、何が謎なのか。非常に分かりやすく読みやすい一冊。

知識は無いけど、時々この手の本が無性に読みたくなる。著者の「宇宙の研究をしているととても謙虚な気持ちになります」との言葉通り、スケールの大きさに日常の些事がどうでも良くなる。精神安定剤にも。

色川武大「百」

家族との微妙な距離感を描いた短編集。「百」と「永日」は父との、「連笑」は弟との関係、「ぼくの猿 ぼくの猫」にはナルコレプシーで著者が生涯悩まされた幻覚が綴られる。博徒・阿佐田哲也としての無頼のイメージからは遠い、静かで誠実な私小説。

自分に、ここまで真っすぐ自らを見つめることができるだろうか。
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東京大学のアルバート・アイラー ―東大ジャズ講義録

菊地成孔、大谷能生「東京大学のアルバート・アイラー ―東大ジャズ講義録」歴史編&キーワード編

講義録だが、むちゃくちゃ面白い。音源を次から次へと紹介しながら、軽妙な語り口で菊地・大谷史観とも言うべきジャズの歴史を編んでいく。これまで何となく聞いていたジャズが高度な記号性や論理を有し、それが商業性の中でどう変化してきたかがよく分かる。
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アヘン王国潜入記

高野秀行「アヘン王国潜入記」

当時世界最大の阿片産地だったゴールデントライアングルの農村で、芥子を栽培しながら7カ月過ごした破格の記録。

村に溶け込み、しかもアヘン中毒の“駄目な村人”に。

ビルマの少数民族についての貴重な報告でもある。ジャーナリスト的な思考に染まった人間にはこういうものは書けない。

池袋ウエストゲートパーク

石田衣良「池袋ウエストゲートパーク」

IWGP1作目。娯楽小説の傑作。「池袋」というひとつの世界を作り上げていて、素材はありがちでも、キャラ作りとか、テンポの良い展開とか、漫画的な魅力で引き込まれる。

オレオレな文体は個人的に好きじゃないけど、読み進めるうちに気にならなくなった。

MISSING

本多孝好「MISSING」

喪失感を描いた短編集。全体的にストーリーには既視感があるものの、雰囲気勝ち。村上春樹からくせを無くした印象の文章で、感傷的すぎるかもしれないけど、それが魅力。

いねむり先生

伊集院静「いねむり先生」

出会いによって人は救われる。伝説的な博徒で小説家の色川武大との交流を、静かに、誠実に描いた自伝的小説。

何よりも先生が魅力に溢れている。大人になってもこんな出会いがあるなら、人生は捨てたもんじゃない、そう思える作品。

アヒルと鴨のコインロッカー

伊坂幸太郎「アヒルと鴨のコインロッカー」

ミステリとしては不自然さも残るが、構成が巧くて最後まで一気読み。

本屋襲撃にペット殺し、“3人の物語”に途中参加した僕が戸惑うように、読んでいるこちら側も翻弄される。青春小説としても良い感じ。

パーク・ライフ

吉田修一「パーク・ライフ」

居心地が悪かったり、何か良い予感がしたり、時々、ふっと現実感が無くなったり。公園を舞台に、そんな現代の日常感覚を戯画化して描く。

ストーリーらしいストーリーは無いけど、悪くない雰囲気。