有川浩「塩の街」
有川浩デビュー作。人間が次々と塩化していく社会。終末のラブストーリー。一時期流行ったセカイ系というのか、なんだか今読むと懐かしい雰囲気の作品。もともとライトノベルとして書かれているので、細かな説明が無いままご都合で物語が進むのはご愛嬌。塩で崩壊していく文明という世界設定が想像力を刺激する。
読んだ本の記録。
オリヴァー・サックス「妻を帽子とまちがえた男」
さまざまな神経疾患の症例を紹介した本。人の顔を顔として認識できなくなり(相貌失認)、タイトル通り妻を帽子と間違えるようになった男性を始め、短期の記憶が一切保持できず、何十年も前の時点で世界が止まっているコルサコフ症候群の男性や、「左」が視覚としても概念としても欠落した女性など。興味本位で読み始めたが、人間とは何か考えさせられる内容だった。
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サン=テグジュペリ「夜間飛行」
サン=テグジュペリの名作。徹底したリアリズム小説であると同時に、全編を通じて詩的な美しさをたたえている。中でも、一縷の光を求めて雲の上に出る場面は言葉を失うほど。
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庄野潤三「夕べの雲」
多摩丘陵の上の一軒家、夫婦と3人の子供。庭の風よけの木をどうするか悩んだり、子供が兄弟でじゃれ合っていたり、駅前で梨を買ったり……。何でもないようなことが幸せ、という内容が続く。何かを思い立っても、いつかそのうち、で穏やかな日々は過ぎていく。 団地造成で切り開かれていく近くの山の描写が唯一その時間が失われることを暗示するかのように時折挟まれる。
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高山文彦「ふたり 皇后美智子と石牟礼道子」
2013年の水俣訪問を中心に、他者の悲しみに感応する「もだえ神」としての天皇皇后と石牟礼道子の姿を描く。
著者の北条民雄や中上健次の評伝が素晴らしかったので、そのレベルを期待していたら、ちょっと期待とは違う内容だった。水俣病闘争史に関しては「苦海浄土」の第二、第三部や渡辺京二の著書をもとに書かれた部分が多く、石牟礼道子という存在に対しても、取材者として踏み込むというより、友人としての描写にとどまっている。ただそのぶん人柄が伝わってくる貴重な一冊でもある。
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信多純一「現代語訳 完本 浄瑠璃物語」
牛若丸と浄瑠璃姫の悲恋物語。「浄瑠璃」という言葉は一般的だが、その語源である浄瑠璃物語はあまり知られていない。起伏のあるストーリーで、他の古典説話と比べてもなかなか面白い。
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村上春樹「若い読者のための短編小説案内」
ガイドというより、それぞれの作品をどう読むかということを作家としての立場から綴ったエッセイ。すぐれた書評・読書案内であると同時に、読み物としても面白い。 “純文学”をどう楽しむか。「仮説を立てて読む」ということの喜びが冒頭に書かれている。仮説というと大げさに聞こえるが、確かにその通りで、それが可能なだけの奥行きを持つかどうかが、ただの散文か文学かの境目だろう。
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