柴崎友香「その街の今は」
何気ない日常を描くという、よくある感じの小説だが、大阪の街に対する愛情に富んでいて読んでいて温かい気持ちになる。それもありがちなデフォルメされた“大阪らしい大阪”ではなく、日本中共通するような都市の情景に、そこで生まれ育ったという愛着を滲ませる。
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読んだ本の記録。
柴崎友香「その街の今は」
何気ない日常を描くという、よくある感じの小説だが、大阪の街に対する愛情に富んでいて読んでいて温かい気持ちになる。それもありがちなデフォルメされた“大阪らしい大阪”ではなく、日本中共通するような都市の情景に、そこで生まれ育ったという愛着を滲ませる。
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三宅周太郎「続・文楽の研究」
昭和初期に書かれた評論と随筆集。豊竹山城少掾、吉田栄三ら名人の逸話や、文楽の危機について。
著者は後継者難から文楽の未来を悲観しつつ、歌舞伎などに比べて往時の形態、技芸を忠実に現在に伝えているとその価値を高く評価している。当時既に衰退著しかった淡路人形浄瑠璃についての記述もあり、芸が変わらずに受け継がれてくることの難しさを思わされる。
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安藤鶴夫による文章が3編収録されているが、山城小掾となる前の古靭太夫の芸談と、紋十郎の評伝が特にすばらしい。古靭の芸談は戦争による連載中止で途中で終わってしまっているが、若き修行の日々を丁寧に語っていて、それ自体がひとつの浄瑠璃のよう。そして花形として一時代を築きながら三和会の会長となって苦難の日々を送った紋十郎の半生。住太夫や簑助がまだ入門したてで、現在の文楽協会の前史とも言える物語。当時の空気を伝えていて読み応えがある。