桂吉坊「桂吉坊がきく藝」
当時20代半ばの若手落語家、桂吉坊が、茂山千作や竹本住大夫、宝生閑、坂田藤十郎、市川團十郎ら、各界の錚々たる名人の話を聞いたもの。芸に対する貪欲な好奇心と真摯な姿勢がうまく話を引き出していて、レベルの高いインタビューとなっている。住大夫の「声でなく息で変える」など、名人芸の神髄が分かる。
読んだ本の記録。
橋本治「大江戸歌舞伎はこんなもの」
江戸時代の歌舞伎はどんなものだったのか。そして、どう終わったのか。伝統芸能というと昔から変わっていないような印象を受けるが、“伝統”として確立される段階ではそれなりの変化、集約がある。
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蔵前仁一「あの日、僕は旅に出た」
初めてのインド、仕事を捨てての長旅、「遊星通信」の発行、「旅行人」の出版、休刊……蔵前仁一の30年。
「深夜特急」の沢木耕太郎や「印度放浪」の藤原新也に憧れて旅に出た人は多いだろうが、旅に精神性を求めない普通の個人旅行者のスタイルを定着させたのはこの人だろう。旅行記にありがちな、自分探しのナイーブさも、インドかぶれのような説経臭さもそこには無い。
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中川右介「歌舞伎 家と血と藝」
師弟関係や養子縁組が複雑に入り組む歌舞伎の世界。家と血と芸がどう継承されているかを追っただけなのに、むちゃくちゃ面白い。中村勘三郎家が実質17代目に始まることや、松本幸四郎家の存在感、坂東玉三郎の奇跡、何人もの不遇の役者など、名跡がどう受け継がれているかだけではその全貌は見えてこない。著者自身が王朝や帝制という言葉を使っているように、後継問題を通して繁栄と衰退を繰り返すさまは世界史の縮図のよう。こうした舞台の背後の文脈は他の芸術では余分なものと考えられるが、歌舞伎では大向うから掛かる声が役名ではなく屋号や代数であるように、欠かせない要素なのだろう。歌舞伎入門にもお勧めの一冊。