歌舞伎の愉しみ方

山川静夫「歌舞伎の愉しみ方」

型や舞台の作りなど、歌舞伎特有の表現技法や約束事を丁寧に解説した一冊。入門書ながら、著者の歌舞伎に対する愛が溢れている。山川静夫という名アナウンサー、芸能評論家のエッセイとして、歌舞伎にそれほど興味がなくても楽しく読めるのでは。

芝居の神様 島田正吾・新国劇一代

吉川潮「芝居の神様 島田正吾・新国劇一代」

98歳で亡くなる直前まで芝居に生きた島田正吾の評伝。澤田正二郎の急死から、島田・辰巳柳太郎の二人による黄金期、緒形拳の退団を経て、後継者の不在、低迷、解散に至るまで新国劇の歴史を描く。

解散と辰巳の死去後、島田は新国劇の代表作を一人芝居にアレンジして上演を続けた。生涯を捧げた、という表現がこれほどふさわしく、魅力的な人はいない。

現代演劇の地図

内田洋一「現代演劇の地図」

セリフによる劇=ストレートプレイは日本に定着し得るか。能も浄瑠璃も歌舞音曲と切り離せない。この伝統をいかに乗り越え、セリフに身体性をもたせるのか。

井上ひさし、野田秀樹、平田オリザから、本谷有希子まで。各所に発表された評論をまとめたもので、前半の書き下ろし部を除くとややまとまりに欠ける印象だが、それぞれの劇作家、演出家が何を表現しようとし、どう変化してきたのか、挑戦の見取り図となっている。

AKB48白熱論争

小林よしのり、中森明夫、宇野常寛、濱野智史「AKB48白熱論争」

メンバーの名前すらほとんど分からない立場で読むと、引いてしまうくらい熱のこもった対談(褒め言葉です)。

推す=成長を眺める楽しみは劇団など他の集団でもあるし、序列システムなどの完成度は宝塚の方が高いだろう。それでも、人気と金の相関性を隠そうとしない、それによってかえってオープンな公平性が保たれているというところに戦略の新しさがある。金で買える1票の方が思いが込められるとの言葉は民主主義の逆説として面白い。

AKB以前のアイドルグループが“一部を見せる”というフェイクドキュメンタリーだったのに対し、そういった作り込みをしないでソーシャルメディアに物語作りを委ねてしまうという根本的な違いにも気付かされた。

能・文楽・歌舞伎

ドナルド・キーン「能・文楽・歌舞伎」

圧倒的な知識とそれに基づく理解の深さ。能の解説書などで、「幽玄」といった概念は曖昧な説明になりがちだが、原文が英語で書かれているためか、西洋的・分析的な考え方に染まってしまった現代日本人にも分かりやすく書かれている。初心者にとっては最良の概説書だろう。

著者の生き方を見ていると、文化とはただそこにあるものではなく、選び、学び取っていくものだと感じる。
“能・文楽・歌舞伎” の続きを読む

上方伝統芸能あんない

堀口初音「上方伝統芸能あんない 上方歌舞伎・文楽・上方落語・能・狂言・上方講談・浪曲・上方舞」

能、文楽、歌舞伎から落語、浪曲、舞まで、上方伝統芸能の初歩の解説書。観劇ガイドに加え、柔と剛、舞と踊りなど、上方と江戸の芸能の違いにも触れていて、とても分かりやすい。それぞれの項目に演者へのインタビューも載っていて読み物としても充実。

宝塚という装置

青弓社編集部「宝塚という装置」

宝塚に関する論文集。宝塚の世界は他の芸能と違い、役名―芸名―愛称―本名、の四つの層で形成され、本名=現実社会は徹底的に隠されている。これによってより浮世離れした舞台が築き上げられていることなど、宝塚の特異性が分かりやすい。全体的に若い研究者が多くてレポート止まりの内容も。

知の逆転

ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソン「知の逆転」

ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックスの3人のインタビューは刺激的でとても面白い。

テクノロジーの変化が加速し、社会における高齢者の役割が不明確になってきている。資本主義という概念は空虚で、多くの新技術は経済の公共部門から生まれ、最も市場原理に純粋な金融こそ最も機能不全に陥りやすい。音楽は他の記憶よりも深く脳に残されている……などなど。

残りの3人のインタビューは、それぞれの専門分野の話にうまく切り込めていなくて少し物足りない印象。そして専門外の話は少し説教臭い。