アヘン王国潜入記

高野秀行「アヘン王国潜入記」

当時世界最大の阿片産地だったゴールデントライアングルの農村で、芥子を栽培しながら7カ月過ごした破格の記録。

村に溶け込み、しかもアヘン中毒の“駄目な村人”に。

ビルマの少数民族についての貴重な報告でもある。ジャーナリスト的な思考に染まった人間にはこういうものは書けない。

池袋ウエストゲートパーク

石田衣良「池袋ウエストゲートパーク」

IWGP1作目。娯楽小説の傑作。「池袋」というひとつの世界を作り上げていて、素材はありがちでも、キャラ作りとか、テンポの良い展開とか、漫画的な魅力で引き込まれる。

オレオレな文体は個人的に好きじゃないけど、読み進めるうちに気にならなくなった。

MISSING

本多孝好「MISSING」

喪失感を描いた短編集。全体的にストーリーには既視感があるものの、雰囲気勝ち。村上春樹からくせを無くした印象の文章で、感傷的すぎるかもしれないけど、それが魅力。

いねむり先生

伊集院静「いねむり先生」

出会いによって人は救われる。伝説的な博徒で小説家の色川武大との交流を、静かに、誠実に描いた自伝的小説。

何よりも先生が魅力に溢れている。大人になってもこんな出会いがあるなら、人生は捨てたもんじゃない、そう思える作品。

アヒルと鴨のコインロッカー

伊坂幸太郎「アヒルと鴨のコインロッカー」

ミステリとしては不自然さも残るが、構成が巧くて最後まで一気読み。

本屋襲撃にペット殺し、“3人の物語”に途中参加した僕が戸惑うように、読んでいるこちら側も翻弄される。青春小説としても良い感じ。

パーク・ライフ

吉田修一「パーク・ライフ」

居心地が悪かったり、何か良い予感がしたり、時々、ふっと現実感が無くなったり。公園を舞台に、そんな現代の日常感覚を戯画化して描く。

ストーリーらしいストーリーは無いけど、悪くない雰囲気。

猫鳴り

沼田まほかる「猫鳴り」

子を流産した夫婦や思春期の少年のもとに現れ、不思議な存在感を見せる猫。

よくある“心温まる動物もの”ではなく、第1、2部は、登場人物それぞれの人生を通じて濃密な負の心理描写が続く。その分、老いた主人公と老猫の静かな日々がストレートに描かれる第3部が胸を打つ。

困ってるひと

大野更紗「困ってるひと」

闘病記ながら、見事なエンターテイメント。

共感できる所もあれば、できない所もあるけど、そんなのは当然のこと。生きることは大変だけど、自分の生きている場所で、自分なりに頑張ろう、そういう気持ちになれる。
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ポートレイト・イン・ジャズ

和田誠、村上春樹「ポートレイト・イン・ジャズ」

和田誠が描いたミュージシャンの肖像に村上春樹が短いエッセイを付けたもの。文章は気障すぎるけど、ジャズへの思いが伝わってきて、読んでるこちらも色々と聴きたくなる。

名盤ガイドや評伝とは違って非常に個人的な内容だけど、音楽を聴くってのは本来はこういうことなんだな、と思う。