安部公房「笑う月」
夢のスケッチ。小説とエッセイという違いはあれ、同じ夢でも漱石の「夢十夜」や百閒の「冥途」とは随分雰囲気が異なる。夢を現実の言葉と理性で語ろうとした安部公房の洞察とユーモア。ただの不条理文学ではない公房の創作スタイルがよく分かる一冊。
“当然だろう、弱者への愛には、いつだって殺意が込められている”
読んだ本の記録。
ジョン・クラカワー「荒野へ」
アラスカで餓死した青年。彼はなぜ荒野を目指したのか―。映画「Into the Wild」の原作ノンフィクション。
究極の自由は自分からの自由にしか存在しない。
“荒野へ” の続きを読む
著者の最後の長篇にして、到達点。他者を求め、他者に遠慮し、他者を諦め、それが独善であることに気づく。幻覚、幻聴に悩まされ、正気と狂気の間を彷徨う男の記録。
「自分は誰かとつながりたい。自分は、それこそ、人間に対する優しい感情を失いたくない―」
“狂人日記” の続きを読む
色川武大「百」
家族との微妙な距離感を描いた短編集。「百」と「永日」は父との、「連笑」は弟との関係、「ぼくの猿 ぼくの猫」にはナルコレプシーで著者が生涯悩まされた幻覚が綴られる。博徒・阿佐田哲也としての無頼のイメージからは遠い、静かで誠実な私小説。
自分に、ここまで真っすぐ自らを見つめることができるだろうか。
“百” の続きを読む
菊地成孔、大谷能生「東京大学のアルバート・アイラー ―東大ジャズ講義録」歴史編&キーワード編
講義録だが、むちゃくちゃ面白い。音源を次から次へと紹介しながら、軽妙な語り口で菊地・大谷史観とも言うべきジャズの歴史を編んでいく。これまで何となく聞いていたジャズが高度な記号性や論理を有し、それが商業性の中でどう変化してきたかがよく分かる。
“東京大学のアルバート・アイラー ―東大ジャズ講義録” の続きを読む