金子光晴「どくろ杯」
絶望的な困窮の中、妻との問題を抱え、長い放浪の旅が始まる。抑揚の無い淡々とした筆致ながら、人の業の深さと生の力強さに溢れている。はっとするような言葉使いも随所に。
「唇でふれる唇ほどやわらかなものはない」
「うんこの太そうな女たちが踊っていた」
読んだ本の記録。
乾ルカ「夏光」
スナメリの祟りでできた顔の痣。耳の奥から鈴の音がする少年……。
ホラーというより、不気味なタッチで世界の残酷さ、少年時代の切なさを描いた感じ。子供の視点が瑞々しくて、デビュー作とは思えない完成度の高さ。
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西村賢太「小銭をかぞえる」
自分の屑さを客観視し、エンターテイメントとして提示する。この視点はかつての私小説には無かった(というより、ここまであっけらかんとしていなかった)もので、読みながら共感はできないが、大変面白い。
町田康が解説で“自由の感覚”と呼んでいるのがしっくりくる。
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パブロ・カザルス「鳥の歌」
カザルスの発言と短いエピソード集。自由と平和を何よりも希求し、音楽の力を信じた高潔さの一方、現代音楽に耳を貸さない頑固さも伺えて面白い。
シンプルな内容だけど、愛にあふれた一冊。
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