ヤバい経済学

スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー「ヤバい経済学」

経済学の手法を用い、米国の犯罪減少の最大の要因が中絶の合法化であることや、相撲の八百長を統計データを基に証明する。

子供が銃で死ぬリスクより、家の裏のプールで死ぬリスクの方が遙かに高いのに、銃のリスクばかりを気にしてしまう理由など、物事の見方として大変参考になる。
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ぼっけえ、きょうてえ

岩井志麻子「ぼっけえ、きょうてえ」

岡山の遊郭で女郎が語る陰惨な身の上。方言を駆使した滑らかな語り口が緊張と不安感をあおる。いつの世も人間こそが恐ろしい。

傑作短編ホラー。ただ、表題作以外は恐くない。

乳と卵

川上未映子「乳と卵(らん)」

饒舌な語りが町田康を思わせるが、書こうとしているものはかなり違う。身体や世界との違和感。読み手へのサービス精神もあって、文章を読むこと自体に心地よさを感じられる。

正直なところ、この作品は“女性”が全面に出過ぎていて入り込めなかったけど、クライマックスのシーンは心に残った。

類推の山

ルネ・ドーマル「類推の山」

未完でこれほど面白い作品を読んだことが無い。ベスト・オブ・未完小説。

世界の中心にそびえる不可視の「類推の山」。シュールレアリスム小説の傑作とされているが、そんな堅苦しいものではなく、冒険小説として無類の面白さ。物語の魅力が詰まっている。未完なのが残念だけど、未完だからこそ美しいのかもしれない。

告白

湊かなえ「告白」

救いようのない話だが、スピード感があって最後まで引き込まれて読んだ。一人一人が交替で事件とその後を語る、そこに微妙なずれがあって、真実が分からなくなるあたり、芥川の「藪の中」のような雰囲気。

ただ、物語の道具としてのエイズの扱い方はちょっと悪趣味だと感じた。

あやとりの記

石牟礼道子「あやとりの記」

乞食、隠亡、孤児……“すこし神さまになりかけて”いるひとたちと過ごす、みっちんの四季。

ストーリーらしいストーリーはないけど、一瞬一瞬が魅力にあふれている。この人ほど言霊という言葉が似合う作家はいない。後半の「迫んたぁまになりたい」が胸を打つ。

ヤノマミ

国分拓「ヤノマミ」

南米アマゾンの先住民、ヤノマミ。

生まれた子を精霊としてそのまま天に返す場面に衝撃を受ける。死生観などの価値観は、想像ができないほど我々日本人と隔たっている。それでも同じ様な感情を抱く。それが人らしさなのだろう。
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根津権現裏

藤澤清造「根津権現裏」

自殺した友人を巡る物語。「等身大」と言ったら安っぽく響くが、同じ私小説でも安吾のように突き抜けた駄目さではなく、百閒のようなユーモアも無い。ただその地味さが逆に現実味があって、共感できる。

西村賢太が再び光を当てるまで、ほぼ忘れられかけていた作品なのに古さを感じない。

私家版 差別語辞典

上原善広「私家版 差別語辞典」

言葉がどう規制され、差別語となるのか。この本は辞典と言うよりエッセイに近いけど、一人でも多くの人に知ってもらいたい内容。

メディアはどうしても無難な表現を使わざるを得ないが、過剰な自粛が言葉を消すことはあってはならない。不適切な言葉は「歴史上の言葉」に移行させるべきで、無理に葬れば、悪意は形を変えて再び姿を現すだろう。

エレンディラ

ガブリエル・ガルシア=マルケス「エレンディラ」

天使や幽霊船など、あり得ないようなことが自然なこととして起こり、物語が進んでいく。でも世界の見え方としては紛れもない“現実”。

物語をマジックリアリズムとリアリズムに分けて考えるのは、そのどちらに属する作品をも矮小化することになる。