中川右介「悲劇の名門 團十郎十二代」
昔ほどには序列がはっきりしなくなっているが、歌舞伎における名跡はまさに地位そのもの。そのなかでも最高位の團十郎を、歴代がどう生きたのか。それは役者が河原乞食から高尚な伝統芸能の担い手になるまでの歌舞伎の歴史そのものでもあり、実力がはっきりと分かる芸の世界で生まれながらに最高位を生きることは、それだけで複雑な一生を全ての團十郎に強いてきた。九代目とその後の空白期間を経て團十郎も幹部役者の一人に落ち着いているが、十三代目は今後どうなっていくのだろう。
読んだ本の記録。
角幡唯介「雪男は向こうからやって来た」
雪男捜索のルポというよりも、雪男が実在すると確信し、生涯をそれに費やした男たちの物語。著者は08年の雪男捜索隊に参加しているが、その時の記録より、それ以前に雪男の姿や足跡を目撃したことがきっかけで、死ぬまでヒマラヤに通い続けることになった人々の話が印象深い。
人がふとしたきっかけで信仰の道に入るように、雪男は向こうからやって来て、彼らを離さなかった。「空白の五マイル」は冒険そのものの凄みで読ませたが、UMAのような読む前に結果が分かっている題材をここまで読ませるのは相当な筆力。大きさや外見はともかくとして、ヒマラヤに2足歩行する未知の動物=雪男はいるのかもしれないと思わされた。
野村進「島国チャイニーズ」
劇団四季からチャイナタウン、山形の農村の中国人妻まで、在日華僑、華人の話を聞いて歩く。
つい、「在日」として韓国・朝鮮系と(しばしばマイナスイメージで)ひとくくりに考えがちだが、日本での生活への満足度や、国籍、中国名へのこだわりの薄さなど実態は大きく異なる。雑誌連載がもとになっているためか、それぞれの話が少し浅いけど、在日チャイニーズの多様さに気付かされる。
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ジャイルズ・ミルトン「奴隷になったイギリス人の物語」
欧州各地からモロッコに連れ去られ、奴隷となった人々の記録。黒人奴隷の影に隠れた歴史の盲点。100万という数字や記述の正確さは判断できないが、この事実を抜きにしては、当時の白人のイスラム観というか、ムーア人観は理解できないのだろう。
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