AKB48白熱論争

小林よしのり、中森明夫、宇野常寛、濱野智史「AKB48白熱論争」

メンバーの名前すらほとんど分からない立場で読むと、引いてしまうくらい熱のこもった対談(褒め言葉です)。

推す=成長を眺める楽しみは劇団など他の集団でもあるし、序列システムなどの完成度は宝塚の方が高いだろう。それでも、人気と金の相関性を隠そうとしない、それによってかえってオープンな公平性が保たれているというところに戦略の新しさがある。金で買える1票の方が思いが込められるとの言葉は民主主義の逆説として面白い。

AKB以前のアイドルグループが“一部を見せる”というフェイクドキュメンタリーだったのに対し、そういった作り込みをしないでソーシャルメディアに物語作りを委ねてしまうという根本的な違いにも気付かされた。

能・文楽・歌舞伎

ドナルド・キーン「能・文楽・歌舞伎」

圧倒的な知識とそれに基づく理解の深さ。能の解説書などで、「幽玄」といった概念は曖昧な説明になりがちだが、原文が英語で書かれているためか、西洋的・分析的な考え方に染まってしまった現代日本人にも分かりやすく書かれている。初心者にとっては最良の概説書だろう。

著者の生き方を見ていると、文化とはただそこにあるものではなく、選び、学び取っていくものだと感じる。
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上方伝統芸能あんない

堀口初音「上方伝統芸能あんない 上方歌舞伎・文楽・上方落語・能・狂言・上方講談・浪曲・上方舞」

能、文楽、歌舞伎から落語、浪曲、舞まで、上方伝統芸能の初歩の解説書。観劇ガイドに加え、柔と剛、舞と踊りなど、上方と江戸の芸能の違いにも触れていて、とても分かりやすい。それぞれの項目に演者へのインタビューも載っていて読み物としても充実。

宝塚という装置

青弓社編集部「宝塚という装置」

宝塚に関する論文集。宝塚の世界は他の芸能と違い、役名―芸名―愛称―本名、の四つの層で形成され、本名=現実社会は徹底的に隠されている。これによってより浮世離れした舞台が築き上げられていることなど、宝塚の特異性が分かりやすい。全体的に若い研究者が多くてレポート止まりの内容も。

知の逆転

ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソン「知の逆転」

ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックスの3人のインタビューは刺激的でとても面白い。

テクノロジーの変化が加速し、社会における高齢者の役割が不明確になってきている。資本主義という概念は空虚で、多くの新技術は経済の公共部門から生まれ、最も市場原理に純粋な金融こそ最も機能不全に陥りやすい。音楽は他の記憶よりも深く脳に残されている……などなど。

残りの3人のインタビューは、それぞれの専門分野の話にうまく切り込めていなくて少し物足りない印象。そして専門外の話は少し説教臭い。

タカラヅカ

毎日新聞社「タカラヅカ」

70年代に「ベルサイユのばら」が社会現象となった直後の宝塚を取り上げた連載企画。あとがきで自ら“野次馬根性”と書いている通り、奔放な連載ながら、当時の空気感が伝わってくる名企画。人工美を追求した舞台と宝塚の町。何より、浮世離れした歌劇団や音楽学校の世界に踏み込んでいて、今読んでもとても面白い。

儚い羊たちの祝宴

米澤穂信「儚い羊たちの祝宴」

ミステリーというよりもホラーの連作短編集。「ラスト一行の衝撃」という帯は少し大げさだけど、各編とも終盤で登場人物の歪みが明らかにされて、途端にホラー作品になる。この著者の作品を読んだのはこれが初めて。衒学的なライトノベルって感じの文章で、巻末の参考文献に中野美代子の名前があって納得。

プロメテウスの罠3

「プロメテウスの罠3 福島原発事故、新たなる真実」

シリーズ3冊目。内容は少しずつ地味になってきたけど、病院や高齢者などの避難のリスク、除染、がれきの処理など、かえって大切なテーマが増えた。

原発爆発後に町民にヨウ素剤を配った三春町については、これまで称賛も含めて表面的な扱いにとどまっていたが、大熊町から避難してきた専門知識のある職員がいて、風向きも見て判断した経緯が明らかにされている。

また、除染でもがれきの広域処理でも電通に巨額の広告代が流れていること、東洋町が最終処分場の調査受け入れ表明をした際に、裏で山師のような人物が動いていたことなどもとても興味深い。