ハヤカワ演劇文庫「岸田國士I」
岸田國士の短い戯曲13篇。「紙風船」など夫婦の日常を切り取った作品が多い。変化していく夫婦、男女、家族の関係。大正時代に書かれたものとは思えない。すれ違い、取り繕い……会話の微妙な空気を芸術として提示する姿勢は現代の作品と変わらない。
生身の人間が行う演劇は人間関係の緊張感や閉塞感を顕在化させる。別役実は「劇作家は時代による対人関係の変化を捉えるのが仕事」と語っていたが、そうした意味では、岸田國士の短い作品は演劇の見本のよう。
読んだ本の記録。
「井上ひさしの日本語相談」
日本語についての素朴な質問に井上ひさしが答える。気楽に読める一方で、はっとさせられることも多い。
日本語は形容詞が少なく、その不足を補うために形容動詞が量産され、最近は「~的」という言葉使いが多用されるようになった。人称や数の支配を受ける英語の動詞に対して、他者との関係に支配される日本語の動詞。音節の少なさから来る同音異義語の多さ。……などなど。普段意識していなかった事に改めて気付かされた。
何より、「正しい言葉使い」にこだわるのではなく、どんな表現でも誤用や紋切り型と切り捨てるのではなく、なぜ使われるようになったのかを考え、向き合っている姿勢を見習いたい。巻末の丸谷才一らとの対談も、井上ひさしの言葉や劇作に対する姿勢が見えて興味深い。
橋本治「浄瑠璃を読もう」
浄瑠璃の代表作を読み解く。
歴史上の出来事を題材に、というよりも自由に加筆・改変が可能なパーツとして、好き勝手に物語を組み立てるという作劇法は、現代にも通じる日本の歴史観、物語観かも。
「歴史は、江戸時代という現在が抱えているドラマの種を植えつけるための土台になるだけなのだ」