脳はこんなに悩ましい

池谷裕二、中村うさぎ「脳はこんなに悩ましい」

脳の話というより、脳を糸口に遺伝子や進化、心のあり方など、色々な話を行ったり来たり。つまみ食い的な内容だけど、興味深いエピソードが山盛りで読み応えあり。池谷裕二と中村うさぎは一見不思議な組み合わせだけど、話がかなりかみ合っていてレベルの高い対談本。下ネタも思ったほど無い。

ヘンリー四世

シェイクスピア「ヘンリー四世」

英国版“大河ドラマ”で、物語そのものは少し冗長に感じるものの、過剰に饒舌なセリフのかけあいが魅力的。ダメ騎士フォルスタッフを描くために物語がある。特に一見蛇足にも思える第2部の存在にその印象が強い。

歌舞伎の愉しみ方

山川静夫「歌舞伎の愉しみ方」

型や舞台の作りなど、歌舞伎特有の表現技法や約束事を丁寧に解説した一冊。入門書ながら、著者の歌舞伎に対する愛が溢れている。山川静夫という名アナウンサー、芸能評論家のエッセイとして、歌舞伎にそれほど興味がなくても楽しく読めるのでは。

現代演劇の地図

内田洋一「現代演劇の地図」

セリフによる劇=ストレートプレイは日本に定着し得るか。能も浄瑠璃も歌舞音曲と切り離せない。この伝統をいかに乗り越え、セリフに身体性をもたせるのか。

井上ひさし、野田秀樹、平田オリザから、本谷有希子まで。各所に発表された評論をまとめたもので、前半の書き下ろし部を除くとややまとまりに欠ける印象だが、それぞれの劇作家、演出家が何を表現しようとし、どう変化してきたのか、挑戦の見取り図となっている。

上方伝統芸能あんない

堀口初音「上方伝統芸能あんない 上方歌舞伎・文楽・上方落語・能・狂言・上方講談・浪曲・上方舞」

能、文楽、歌舞伎から落語、浪曲、舞まで、上方伝統芸能の初歩の解説書。観劇ガイドに加え、柔と剛、舞と踊りなど、上方と江戸の芸能の違いにも触れていて、とても分かりやすい。それぞれの項目に演者へのインタビューも載っていて読み物としても充実。

知の逆転

ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソン「知の逆転」

ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックスの3人のインタビューは刺激的でとても面白い。

テクノロジーの変化が加速し、社会における高齢者の役割が不明確になってきている。資本主義という概念は空虚で、多くの新技術は経済の公共部門から生まれ、最も市場原理に純粋な金融こそ最も機能不全に陥りやすい。音楽は他の記憶よりも深く脳に残されている……などなど。

残りの3人のインタビューは、それぞれの専門分野の話にうまく切り込めていなくて少し物足りない印象。そして専門外の話は少し説教臭い。

タカラヅカ

毎日新聞社「タカラヅカ」

70年代に「ベルサイユのばら」が社会現象となった直後の宝塚を取り上げた連載企画。あとがきで自ら“野次馬根性”と書いている通り、奔放な連載ながら、当時の空気感が伝わってくる名企画。人工美を追求した舞台と宝塚の町。何より、浮世離れした歌劇団や音楽学校の世界に踏み込んでいて、今読んでもとても面白い。