小説「聖書」

ウォルター・ワンゲリン 小説「聖書」旧約篇上新約篇

  

神学者でもあり、作家でもある著者が、聖書の膨大なテキストを小説の文体で書き下ろした。

天地創造、神とアブラハムの契約、モーセの出エジプト、ダビデとソロモンの時代、バビロン捕囚。旧約聖書に書かれたエピソードの一つ一つは多くの人が知っているだろうが、全体を通読したことがある人はキリスト教徒やユダヤ教徒以外では稀だろう。膨大な断片の集まりである聖書を、神学者としての緻密な解釈に立脚しつつ、原典に忠実に、現代の読み物として蘇らせた著者の仕事はまさに偉業と言える。
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すべてがFになる

森博嗣「すべてがFになる」

20年ほど前のベストセラーを今さらながら。

舞台は孤島の研究所。幼少期に両親を殺し、隔離されたまま研究を続ける天才少女と、その突然の死を巡って物語は進む。プログラミングや理系の学問の素養のある人は、タイトルや序盤の会話に隠されたヒントに気付くかもしれない。
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日の名残り

カズオ・イシグロ「日の名残り」

1989年のブッカー賞受賞作。

語り手の執事スティーブンスは、四角四面の、現代ではかえって慇懃無礼に感じられるような“英国執事”。ことあるごとに執事としての品格を延々と語り、新たな主人であるアメリカ人に合わせるために、真剣にジョークを研究するさまがその性格をよく表している。

ある日休暇を貰った彼は、かつて同じ屋敷に勤めた元同僚の女性を訪ねて小旅行に出かける。その旅の風景と、過ぎ去った日々の回想が交互に綴られる。
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ぴんぞろ

戌井昭人「ぴんぞろ」

表題作は、受賞作の無かった2011年上半期の芥川賞候補作。文藝春秋の選評掲載号に候補作6本を代表して掲載されたので、相対的に評価が高かったのだろう(この回の他の候補作は円城塔「これはペンです」、本谷有希子「ぬるい毒」など)。

短めの中編小説、あるいは長めの短編小説というくらいの分量だが、前半の浅草でのチンチロリンの話から、後半は場末の温泉街のヌード劇場へと物語の場所が移り変わり、ややロードムービーのような雰囲気も。社会の底辺を描きながら、決してアクの強い作風ではなく、むしろ筆はさらさらと群像の表面をなでるように進んでいく。
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