ホサナ

町田康「ホサナ」

大傑作「告白」に匹敵する約700ページの大作。愛犬家の主人公は、ある日、“日本くるぶし”と名乗る神なのか何なのか分からない声から「正しいバーベーキューをせよ」という啓示を受ける。

物語は繰り返し思索の脇道にそれ、思索もひたすら脇道にそれ続ける。予定調和からは程遠い、無茶苦茶な展開がこれでもかというほど積み重ねられる。こんな突拍子もない物語を綴ることができるのも、饒舌な文体を持っているからこそ。
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パラレル

長嶋有「パラレル」

デビュー作「サイドカーに犬」、芥川賞受賞作「猛スピードで母は」から、人間同士の微妙な距離感を描くのが巧い作家。

主人公の男は元ゲームデザイナー、今無職。妻の浮気で離婚したものの、その後も他愛のないメールのやりとりを続け、親しい友人としての距離を保っている。大きなアクシデントも、劇的な展開もそこにはない。過去の回想が挟まれつつ、淡々と日常が続いていく。
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小山田浩子「穴」

2013年下半期の芥川賞受賞作。

語り手の女性は、夫の転勤に合わせて非正規の仕事を辞め、夫婦で田舎町にある夫の実家の隣に引っ越した。姑はややお節介だが良い人で、生活上の不満は何も無い。ただ無職になった引け目が、淡々と続く日常に欠落感をもたらしている。
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