不老不死の遺伝子が発見され、極端に格差が広がった22世紀の社会。最上層の人々のみがその遺伝子の恩恵を受け、最下層の人々は隔離された出島で暮らしている。15歳の少年が島を出て各地を旅する様子をロードムービーのようにつづっていく。
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マチネの終わりに
どちらに否があるというわけでもないのに、成就しなかった恋愛。
結果的に別の人生を歩むことになった二人がふとした偶然で顔を合わせ、それぞれの日常へ戻っていく「シェルブールの雨傘」のラストシーンは“大人の恋愛物語”の金字塔と言えるだろう。
「マチネの終わりに」で描かれる男女の関係も、成就されなかったが故に、それぞれの人生で大きな意味を持つ。
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言壺
SFというと、クラークの「幼年期の終わり」や、ホーガンの「星を継ぐもの」、ハクスリーの「すばらしい新世界」、オーウェルの「1984」など、何となく宇宙や文明を描くものと思いがちだが、言語や認識を題材とした“言語SF”と呼ばれるジャンルがある。中には伊藤計劃の「虐殺器官」のようにそれらが高度に組み合わさった作品もある。
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老ヴォールの惑星
個人的に、SFはミステリー以上に未開拓のジャンルだけど、たまに読むと刺激を受けることが多い。思考実験の場として、いわゆる“純文学”以上に人間を描いている作品がある。
表題作「老ヴォールの惑星」のほか、「ギャルナフカの迷宮」「幸せになる箱庭」「漂った男」の計4編。どれも傑作。
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千々にくだけて
日本に9.11を正面から扱った作品はあまり無い(自分が寡聞にして知らないだけかもしれないけど)。他人事ではない衝撃を受けた人は作家にも多いと思うが、それについて語るべきものが日本文学の土壌には無いのかもしれない。
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雪が降る
読み終えて、じんわりと良い作品だったと思う短編小説はそれなりにあるけれど、読んでいる最中に先が気になって引き込まれる物語は、短編ではあまり無い。
「台風」「雪が降る」「銀の塩」「トマト」「紅の樹」「ダリアの夏」の六編。どの作品も、途中で読み進める手を止めることなく読了。フィクションであることをいかした不器用で気障な男たちが格好良い。
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愛でもない青春でもない旅立たない
朝のガスパール
筒井康隆による実験的小説。91~92年に朝日新聞に掲載された連載小説だが、投書やパソコン通信での反響をリアルタイムで物語の中に取り込んでいくという思い切った手法がとられている。
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