邂逅の森

熊谷達也「邂逅の森」

誰かの人生を追体験できる小説は少ない。優れた作品であっても、大抵は一歩引いた立場からの鑑賞にとどまる。

舞台は大正から昭和にかけての東北。秋田・阿仁のマタギの家に生まれた松橋富治は、身分違いの恋で村を追われ、猟を捨て採鉱夫となる。やがて、そこで知り合った弟分の村に落ち着き、狩猟組の頭領としてマタギの生活に戻る。
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ワンダー Wonder

R.J.パラシオ「ワンダー Wonder」

「オーガストはふつうの男の子。ただし、顔以外は」

遺伝子疾患で“特別”な顔に生まれた少年オーガストを巡る物語。5年生から学校に通い始めたオーガスト、その姉、友人らの視点を通じて一年が語られる。顔を見て驚き、目をそらす子。菌がうつると陰口を叩いたり、直接いやがらせをする子。やがてオーガストとの距離を巡って、クラスは分裂してしまう。

平易な文章で綴られながら、本人や周りの大人、級友たちの感情が丁寧に描かれ、その人間関係の中でオーガストだけでなく、一人一人が成長していく。おそらくこの本を手にする多くの人が、誰か一人ではなく登場する全ての人物、立場に自分を重ねてしまうだろう。
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評伝 石牟礼道子―渚に立つひと

米本浩二「評伝 石牟礼道子―渚に立つひと」

代表作の「苦海浄土」は言うまでも無く、「椿の海の記」や「十六夜橋」、自伝の「葭の渚」まで、石牟礼道子は常に“近代”を問うてきた。夏目漱石から村上春樹、カズオ・イシグロに至るまで、いずれの作家も“近代”や“現代”と人間との関係を描いてきたと言えるが、石牟礼道子ほど正面から対峙した作家はいない。
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日本三文オペラ

開高健「日本三文オペラ」

小松左京の「日本アパッチ族」に続いて、開高健がアパッチ族を題材に書いた小説「日本三文オペラ」。小松作品のような架空の日本ではなく、現実のアパッチ族のことが細かく記されている。

ルンペンのフクスケがスカウトされ、アパッチ部落を訪れるところから物語は始まる。といっても壮大なドラマが描かれるわけではない。著者の後の作品にもつながるルポルタージュ的な描写で、フクスケの視点を通じて人々の暮らしが描かれる。錆びた鉄屑やモツ焼きの匂いが漂ってきそうな細密な描写は、まさに著者の真骨頂。
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日本アパッチ族

小松左京「日本アパッチ族」

現在、大阪ビジネスパークとしてビルが立ち並ぶ一帯から大阪城公園にかけては、戦前は大阪砲兵工廠としてアジア最大規模の軍需工場があった土地。終戦前日の空襲で壊滅し、戦後は長く焼け跡のまま放置されていたが、そこから屑鉄を盗む人々が現れた。集落と独自の文化を作り、膨大なスクラップを発掘・転売して生計を立てた人々は「アパッチ族」と呼ばれた。その野放図なエネルギーに想を得た作品。小松左京の長編デビュー作。
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海も暮れきる

吉村昭「海も暮れきる」

「こんなよい月を一人で見て寝る」
「咳をしても一人」

東京帝大を卒業し、大手保険会社のエリートコースを歩みながら、酒におぼれ、仕事を捨て、家族に捨てられ、小豆島の小さな庵で最期を迎えた尾崎放哉。

種田山頭火と並ぶ自由律俳句の大家でありながら、人間的には極めて厄介な人物であったことが知られている。吉村昭によるこの評伝小説では、その不安定な性格が細かく描写されている。タイトルは「障子あけて置く海も暮れきる」から。
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ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー

山田詠美「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」

著者の初期の代表作で、直木賞受賞作。ソウル・ミュージックをBGMに、黒人社会の恋愛を描く。小洒落た雑誌に載っていそうな翻訳小説の雰囲気だが、性を描写しつつ透明感のある洒脱な文章に著者の作家性が強く表れている。
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廃市

福永武彦「廃市」

ひと夏、親戚の紹介で旧家の世話になることになった語り手の青年。そこで美しい姉妹と、姉の夫を巡る複雑な人間関係に触れることになる。水路が縦横に巡らされた、美しく、どこか退廃的な雰囲気が漂う田舎町を舞台とした名品。ノスタルジックな雰囲気が好きな人にはたまらないだろう。
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