GOTH

乙一「GOTH」

 

猟奇的な殺人に興味のある少年と少女の物語。主人公の少年が、自分が異常=特別という幻想に囚われていて、いわゆる中二病をくすぐる設定。大人として読むとそれは稚さとして気になってしまうが、中学生くらいで読んでいたらはまったかも。

さようならコロンバス

フィリップ・ロス「さようならコロンバス」

アメリカらしい雰囲気に満ちた青春恋愛もの。今や超大御所のイメージがある著者だが、この作品は若く瑞々しい。ひと夏の恋の始まりから終わりまで。よくあるプロットながら、背景にアメリカにおけるユダヤ人社会の姿が書き込まれていて、主人公が働く図書館に通う黒人少年の描写など細部も印象的。普遍的で、かつ唯一無二。
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槿

古井由吉「槿」

記憶の断片と、とりとめのない思考が混じり合う。離人症という言葉が作中に出てくるが、今ここに生きているという実感が失われてしまう瞬間を伸び縮みする不思議な文体でとらえている。読みやすい小説ではない。一文一文は極めて平易な日本語なのに、一段落となると理解に苦しむ。二人の女との関係が物語の主軸となるが、著者はそのドラマに筆を割くわけではない。人物描写も不可解だが、妄想が絡み合って互いの思考に根を下ろしていく様はリアリティがあり、生きることに対する根源的な恐怖のようなものが心に残る。

王国

中村文則「王国」

「掏摸」の姉妹編。悪の象徴としての木崎がこの作品にも登場する。人の悪意は読めないし、人生は徹底的に理不尽。古風(文章は現代的で読みやすいけど)な問題設定は著者の持ち味で、 大器を感じさせる一方、作品はやや小ぶり。悪が典型過ぎるのは狙いだとしても、このテーマなら小説として中編程度の長さでは少し物足りない。ただ読み物としては、「掏摸」 よりこちらの方がスリリングで面白いかも。

人形はなぜ殺される

高木彬光「人形はなぜ殺される」

明智小五郎、金田一耕助とともに日本三大探偵といわれる神津恭介。警察にも頼られる天才探偵とワトソン役の推理作家という設定は今読むと古風だが、鮮やかなトリックは60年前の作品ということを全く感じさせない。

多くのミステリーで人形が殺される時、それは見立てに過ぎず、物語の飾りでしか無い。この作品では、「人形はなぜ殺される」のタイトル通り、人形殺しが完璧なトリックの一部として示される。

HHhH

ローラン・ビネ「HHhH」

タイトルはHimmlers Hirn heißt Heydrich(ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる)という言葉から。ハイドリヒの暗殺事件を題材にしているが、一般的な歴史小説の文体をとらず、語り手が頻繁に登場し、叙述の悩みを吐露するメタ構造をとっている。
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しょっぱいドライブ

大道珠貴「しょっぱいドライブ」

語り手の主体性のなさがいかにも最近の小説らしい(といっても10年以上前の作品だけど)。主体性はないけど意思はしっかりとあって、それがユーモアと共感を呼ぶ。

幕末あどれさん

松井今朝子「幕末あどれさん」

タイトル(adolescents)通り幕末を舞台とした青春小説。といってもありがちな志士の話ではない。侍になじめず、芝居作者に弟子入りする青年と、部屋住みの身から立身出世を目指し、陸軍所に通って結果的に戊辰戦争に身を投じる青年。忠臣が逆賊となり、人も社会も目まぐるしく変わっていく。遠く長州で戦争が始まり、他人事だった江戸の町にもやがて戦火が迫る。価値観が転倒し、先の見えない時代に生きる人々の悩みが現代にだぶる。いつの時代だって、普通の人が普通に生きて社会に翻弄された。もし自分がこの時代に生きていたら、というリアルな実感を与えてくれる作品だった。芝居町の描写は著者ならでは。

私が殺した少女

原尞「私が殺した少女」

ハードボイルド探偵ものの名作。直木賞受賞作。天才少女の誘拐事件に巻き込まれて――。ラストは意外性があるが、それよりも過程を楽しむものだろう。窮地でも必ず飛び出す探偵沢崎の減らず口が小気味良い。このジャンルはチャンドラーくらいしか読んだことがないけど、 たまに読むとやっぱり面白い。