鳥の歌

パブロ・カザルス「鳥の歌」

カザルスの発言と短いエピソード集。自由と平和を何よりも希求し、音楽の力を信じた高潔さの一方、現代音楽に耳を貸さない頑固さも伺えて面白い。

シンプルな内容だけど、愛にあふれた一冊。
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赤朽葉家の伝説

桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」

旧家に生きた祖母、母、わたしと続く三世代の物語。前半はラノベ版「百年の孤独」って感じで、マジックリアリズムの雰囲気も。最後は文体も変わって軽いミステリ風になりつつ、前向きな終わり方。

とってつけたような戦後史や世相の挿入は無くても良い気がするが、作者が楽しんで書いたのが伝わってくる。読んだ人によって、三世代それぞれに異なった印象を受けるのでは。

ヤバい経済学

スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー「ヤバい経済学」

経済学の手法を用い、米国の犯罪減少の最大の要因が中絶の合法化であることや、相撲の八百長を統計データを基に証明する。

子供が銃で死ぬリスクより、家の裏のプールで死ぬリスクの方が遙かに高いのに、銃のリスクばかりを気にしてしまう理由など、物事の見方として大変参考になる。
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ぼっけえ、きょうてえ

岩井志麻子「ぼっけえ、きょうてえ」

岡山の遊郭で女郎が語る陰惨な身の上。方言を駆使した滑らかな語り口が緊張と不安感をあおる。いつの世も人間こそが恐ろしい。

傑作短編ホラー。ただ、表題作以外は恐くない。

乳と卵

川上未映子「乳と卵(らん)」

饒舌な語りが町田康を思わせるが、書こうとしているものはかなり違う。身体や世界との違和感。読み手へのサービス精神もあって、文章を読むこと自体に心地よさを感じられる。

正直なところ、この作品は“女性”が全面に出過ぎていて入り込めなかったけど、クライマックスのシーンは心に残った。

類推の山

ルネ・ドーマル「類推の山」

未完でこれほど面白い作品を読んだことが無い。ベスト・オブ・未完小説。

世界の中心にそびえる不可視の「類推の山」。シュールレアリスム小説の傑作とされているが、そんな堅苦しいものではなく、冒険小説として無類の面白さ。物語の魅力が詰まっている。未完なのが残念だけど、未完だからこそ美しいのかもしれない。

告白

湊かなえ「告白」

救いようのない話だが、スピード感があって最後まで引き込まれて読んだ。一人一人が交替で事件とその後を語る、そこに微妙なずれがあって、真実が分からなくなるあたり、芥川の「藪の中」のような雰囲気。

ただ、物語の道具としてのエイズの扱い方はちょっと悪趣味だと感じた。

あやとりの記

石牟礼道子「あやとりの記」

乞食、隠亡、孤児……“すこし神さまになりかけて”いるひとたちと過ごす、みっちんの四季。

ストーリーらしいストーリーはないけど、一瞬一瞬が魅力にあふれている。この人ほど言霊という言葉が似合う作家はいない。後半の「迫んたぁまになりたい」が胸を打つ。

ヤノマミ

国分拓「ヤノマミ」

南米アマゾンの先住民、ヤノマミ。

生まれた子を精霊としてそのまま天に返す場面に衝撃を受ける。死生観などの価値観は、想像ができないほど我々日本人と隔たっている。それでも同じ様な感情を抱く。それが人らしさなのだろう。
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