「本当の自分」に囚われることほど、しんどいことはない。著者は「個人」という神話を解体し、人間を複数の人格=分人の集合として捉えることを勧める。
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銀河鉄道の父
宮沢賢治の父、政次郎の物語。“親バカ”であることが難しかった時代、厳格な父(賢治の祖父)、喜助から「父でありすぎる」と言われてしまう政次郎の目を通じて、賢治と宮沢家の姿が描かれる。第158回(2017年下期)直木賞受賞作。
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渦 妹背山婦女庭訓 魂結び
浄瑠璃作者、近松半二の生涯を書く時代小説。近松門左衛門の縁者か弟子のように思われがちな名前だが、直接の関係はなく、半二が門左衛門に私淑して近松姓を名乗った。
近松半二こと穂積成章は、儒学者で浄瑠璃好きの父のもとで育ち、道頓堀の竹本座に通ううちに浄瑠璃を書くようになる。同時代の歌舞伎作者、並木正三と半二を幼馴染みの関係としたフィクションの設定が物語を魅力的なものにしている。
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紀州 木の国・根の国物語
「紀伊半島は海と山と川の三つの自然がまじりあったところである。平野はほとんどない。駅一つへだてるとその自然のまじり具合がことなり、言葉が違い、人の性格は違ってくる」
「海からの潮風が間断なく吹きつけるこの枯木灘沿岸で、作物のほとんどは育たない。木は枯れる。(中略)潮風を受けて崖に立っていると、自分が葉を落とし枝が歪み、幹の曲がった樹木のような気がしてくる」
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アムリタ
男好きする母、年の離れた繊細な弟、下宿しているいとこ、訳あって身を寄せている母の幼なじみ、頭を打って記憶が不確かな私。少し変わった五人家族。
妹は若くして死を選び、私はその恋人と付き合い始める。どこまでも続いていきそうな穏やかな日常に、当たり前の日常から少しずれてしまった人々が登場する。
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夜のピクニック
「歩行祭」と呼ばれる高校行事で夜通し歩く生徒たちの姿を描いた青春小説。第2回(2005年)本屋大賞受賞作。
異母きょうだいでクラスメートでもある融と貴子の関係を軸に、高校生の男女が友人や恋人、家族との関係で悩みながら生きている姿が、刻一刻と変化していく夜を背景に描かれる。
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犬は「びよ」と鳴いていた~日本語は擬音語・擬態語が面白い~
山口仲美『犬は「びよ」と鳴いていた~日本語は擬音語・擬態語が面白い~』
わんわん、びりびり、しとしと、つるり。擬音語・擬態語のあり方は、世界の見え方、聞こえ方を司ると言っても過言ではない。
日本語の擬音語・擬態語の数は他の言語と比べてもかなり多いとされる。日本語学者の著者は擬音語・擬態語の移り変わりから、日本語と日本社会の変化をひもといていく。
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北方探検の英傑 近藤重蔵とその息子
江戸時代後期、千島列島をはじめとする蝦夷地を探検し、北方の開拓・防備に大きな功績を残したものの、不遇の後半生を送った近藤重蔵。その息子で、殺人に手を染めてしまい、流刑先の八丈島で「八丈実記」という大部の地誌を記した近藤富蔵。数奇な運命を辿った父子の物語。
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辺境を歩いた人々
日本では、探検家といってもあまり具体的な名前が浮かばない人が多いかもしれない。小さな島国で、未踏の地、未知の地とはあまり縁がなかったようなイメージがあるが、実際には多くの探検家や旅行者が辺境を調査し、“国土”を切り開いてきた。
流刑先の八丈島で「八丈実記」という詳細な地誌を残した近藤富蔵。東北を歩き、民衆の生活誌を細かく記した菅江真澄。蝦夷地の内陸部を踏査した松浦武四郎。南西諸島と千島列島の調査に先鞭を付けた笹森儀助。4人の半生を中心に、辺境を歩いた先人の業績を語る。
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花の棺/殺意のまつり
ベストセラーであるが故に語られず、忘れられてしまう作家がいる。“女王”とも称された著者の作品も、今や絶版となって手に入らないものが少なくない。
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