第129回(2003年上半期)の直木賞受賞作。ある家族の物語が章ごとに視点を変えて綴られる。
道ならぬ兄妹の恋の物語は、家族一人一人の人生が語られていくうちに、歴史と記憶が織りなす重層的な物語となる。
“星々の舟” の続きを読む
読んだ本の記録。
第129回(2003年上半期)の直木賞受賞作。ある家族の物語が章ごとに視点を変えて綴られる。
道ならぬ兄妹の恋の物語は、家族一人一人の人生が語られていくうちに、歴史と記憶が織りなす重層的な物語となる。
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芥川賞を受賞しながらも、世間から忘れられてしまった作家は少なくない。著者もその一人に挙げられることが多いが、「忘れられた」と一言で形容するには、その半生は複雑で起伏に富んでいる。
“オキナワの少年” の続きを読む
京都を舞台とした恋愛ホラー小説。恋した男を失って京都に移り住んだ女性作家の話と、幽霊が見えるという墓守娘の話が交互に紡がれる。静かな語り口に激しい情念が滲む。
“京都恋地獄” の続きを読む
アイルランドへの旅行を前に死んでしまい、未練から浮遊霊となった72歳の男の姿を描いた表題作が面白い。
身体が壁をすり抜け、建物に自由に出入りできる一方、車や電車に乗ることができず、歩く速度でしか動けない。下心から近所の銭湯に行ってみるも同世代しかおらず、無為な日常に飽きてしまったところで、人に取り憑いて移動できることに気付く。そこから憑依を重ねるも念願のアイルランドは遠く、不思議な巡り合わせでブラジルに辿りついてしまう。
“浮遊霊ブラジル” の続きを読む
後味の悪い短編3本。いずれも設定と構成が秀逸。
表題作は、人間が外見で「ブタ」と「テング」に二分された社会が舞台。迫害を受ける「テング」の子供の転換手術を依頼された医師の視点で物語が進む。そこに少女の行方不明事件を追う刑事の話が挟まれ、やがて二つの物語が意外な形で繫がる。
“鼻” の続きを読む
表題作は、原発事故を思わせる大災害を経て鎖国した日本が舞台。老人は死なず、若年層は虚弱で早世の運命にある。主人公の義郎は100歳を超え、食事も着替えも一人ではままならない曾孫の無名の世話をしながら暮らしている。
“献灯使” の続きを読む
本来、モノやサービスの値段は、売り手と買い手との関係性や、その時々の状況などさまざまな要因で決まる。言い換えれば、値段はそこに多様な情報を含んでいる。
近代化と共に値段の付け方は均質化され、一律に提示することが難しい“よく分からない値段”が敬遠されるようになってきたが、京都にはまだ一部にそうした“おねだん”が残っている。チャプリンの研究者である著者は、京都に住んで20年あまりの「京都人見習い」。ゲーム感覚で京都という多様な顔を持つ社会に分け入っていく。
“京都のおねだん” の続きを読む
「一席、おつきあいをねがいます。らちもない無頼のお話で、暢気なだけがご景物であります」
「ほれてかよえば千里も一里、ふられてかえればまた千里。――ぐれてのたくりゃ一里も千里、足を洗うにまた千里」
“無職無宿虫の息” の続きを読む
2017年に発表された推計では、今後半世紀で日本の人口は約3900万人減り、2065年に8808万人になるという。2025年には5人に1人が75歳以上という超高齢社会に突入し、同時に東京でも人口が減少に転じる。2010年時点で人が住んでいた地点の約2割が2050年までに無住化するという推計もあり、日本社会は確実に縮小していく。
本書は2016年にNHKスペシャルで放送された内容を書籍化したもの。冒頭で、地方の過疎の影に隠れがちな東京の課題が明らかにされている。
“縮小ニッポンの衝撃” の続きを読む
青木美希『地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」』
8年が経ち、ついこの間の出来事のような気もする一方で、現在の問題ではないという印象も強くなっているように感じる。元号が変われば、風化の感覚は一層進むだろう。
言うまでもなく、原発事故は過去ではなく今の問題であり、廃炉作業だけでなく、避難者の苦悩も現在進行形である。母子で自主避難し、支援の打ち切りで困窮して自ら命を絶った母親のエピソードが紹介されているが、原発事故という特殊な人災の最大の罪は、人々の間に分断をもたらしたことだった。避難するか、留まるか。その溝は家庭の中にも生まれた。同時に、一部の例外をもって避難者を裕福だと誹謗したり、自主避難者を過敏だと嘲笑するような、社会の想像力の欠如も露わになった。
“地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」” の続きを読む