小川洋子「ミーナの行進」
ミーナと過ごした少女時代を回想した、静かで、とても優しい物語。昔からあるような設定で、起伏も無ければ、文体にも癖が無い。全体として在りし日への郷愁が満ちているが、それを全面に出しているわけでもない。それでも、物語から離れたくないと最後の1ページまで思わされる。卓越した描写とストーリーテリング。場面々々に滲む阪神間の空気も魅力的。思い出といううつくしいものを、四の五の言わず大切にしよう、そう思える作品。
読んだ本の記録。
徳永京子、藤原ちから「演劇最強論」
若手〜中堅劇団を中心とした演劇ガイド。以前は全く興味がなかった世界だが、最近足を踏み入れて、他のジャンル以上に今なお創造性豊かな作品が作られていることに驚いた。20世紀を通じて他の表現手法の鉱脈が徹底的に掘られ、停滞感が漂う中、それらの成果がよりプリミティブな芸術である舞台に環流しているのかもしれない。
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橋本治「大江戸歌舞伎はこんなもの」
江戸時代の歌舞伎はどんなものだったのか。そして、どう終わったのか。伝統芸能というと昔から変わっていないような印象を受けるが、“伝統”として確立される段階ではそれなりの変化、集約がある。
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