石川直樹、須藤功、赤城耕一、畑中章宏、宮本常一「宮本常一と写真」
宮本常一の写真は決して上手な写真ではない。自身の影や被写体と関係の無いものがよく写り込んでいる。ただ、どこかひかれるものがある。
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読んだ本の記録。
石川直樹、須藤功、赤城耕一、畑中章宏、宮本常一「宮本常一と写真」
宮本常一の写真は決して上手な写真ではない。自身の影や被写体と関係の無いものがよく写り込んでいる。ただ、どこかひかれるものがある。
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佐藤清彦「土壇場における人間の研究 ―ニューギニア闇の戦跡」
「ジャワの極楽、ビルマの地獄、死んでも帰れぬニューギニア」と恐れられたニューギニア戦線。文字通り同胞相食む極限状態に陥った日本軍兵士の状況を、膨大な手記や証言から明らかにしていく労作。
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黒川博行「蒼煌」
日本芸術院の新会員選挙を巡る熾烈な買収合戦を描く。現会員が新会員を選ぶという仕組みから絶対的な上下関係が生まれ、画家と画商、政治家の思惑が入り乱れ、億を超える金が動く。物語としては特段面白いものではないが、描かれている世界があまりに衝撃的で引き込まれる。
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井上ひさし「太鼓たたいて笛ふいて」
『放浪記』で知られる作家、林芙美子の後半生を描いた評伝戯曲。
プロデューサー三木孝が囁く「戦争は儲かる」。
従軍文士として「わたしは兵隊さんが好きです。国家の運命という大きな物語に、兵隊さんたちはお一人お一人の物語を捧げてくださっている」と“太鼓たたいて笛ふいて”戦意昂揚に尽くした林芙美子は、戦地を回るうちに敗戦を悟り「非国民」になる。
「滅びるにはこの日本、あまりに美しすぎる」と三木らを前に“非国民の愛国心”を歌う場面は胸を打つ。
物語を作るはずが、国や国民の求めた「物語」に踊らされた作家は戦後、急逝するまでの6年間、「物語」を捨てて庶民の悲しみを書き続けた。井上ひさしは評伝劇を書くのが本当に上手い。舞台を見逃したことが悔やまれる傑作。
石牟礼道子「十六夜橋」
不知火海のほとりに生きる土建業の一族を描いた小説だが、物語ではなく、土地の記憶のようなものを書いている。石牟礼道子の自伝的作品の一つと言え、この作では志乃として登場する盲目の狂女、祖母おもかさまの見ていた世界をどうにか捉えようとする試みに思える。
文章の視点が定まらないことに由来するのかもしれないが、読んでいるうちに作者の存在が消え、ただそこに人々が存在しているような錯覚に陥る。
『苦海浄土』について自らが述べたように、この作品も著者にとって「自分自身に語り聞かせる、浄瑠璃のごときもの」なのかもしれない。ただ生きる人々の営みがどんな神話よりも豊かな広がりと存在感を持って迫ってくる。
中上健次の作品を連想するが、中上よりも作者の作為が感じられない。中上作品に出会ったのと同じ高校生くらいの時に読んでみたかった。