日本の現代演劇

扇田昭彦「日本の現代演劇」

60~80年代を中心に日本の現代演劇史がとても分かりやすくまとまっているとともに、著者個人の観劇体験が書かれていて、演劇ファンが何を見て、どう感じてきたのかの記録ともなっている。

「戦後文学」のような「戦後演劇」を作れなかった新劇、唐十郎らが目指した身体性、蜷川幸雄が商業演劇に移った意味と功績、寺山修司の異端性がどこに由来しているのか、70年代のつかこうへい、80年代の野田秀樹が演劇にもたらしたもの……

余談だが、こうした分かりやすい演劇史が、関西や地方の演劇活動についても書かれてほしい。地方で優れた作品が作られても、それは歴史からこぼれてしまう。

民間軍事会社の内幕

菅原出「民間軍事会社の内幕」

兵站だけではなく、訓練、軍事作戦まで担うPrivate Military Company。国家が表立って行えない分野や、民間の方が効率よく専門性を高められる分野から始まったが、現在はコストカットや人員不足を補うため、かつての軍隊の一部を担う形で欠かせない存在となっている。

正規兵の訓練や、捕虜の尋問まで“外注”する実態は日本からは想像しがたいが、PR会社がメディアや政治家を誘導して世論を形成し、PMCが大量動員されて戦争を遂行する新たな軍需産業の仕組みがイラク戦争を経て出来上がりつつある。
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海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders

難民支援協会「海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders」

思わず買ってしまったけど、使いでがありそうなレシピ集。日本で暮らす難民自身の手によるもので、スーパー等で手に入る食材で作りやすいように工夫されているのがうれしい。

エチオピアのドロワットやインジェラを始め、ウガンダやクルド料理など、もう一度食べたかったけど、ネットで探しても現実的なレシピが見つからなかった料理に手を出せそう。しかし日本はスパイス類が高い……

銀の匙

中勘助「銀の匙」

明治生まれの著者が子供時代を綴った自伝的小説。友人との出会い。別れ。自分が「びりっこけ」だと気づいた痛み。日清戦争や修身の授業で感じた周囲とのずれ。教師への反発。とてもシンプルな文章ながら、前半から後半へと目線の高さが自然に変わっていって、著者自身がどこまで意識したのか分からないが、極めて巧みな印象も受ける。子供の目線で文章を書くのは難しい。これを二十代で書いた感性は相当なもの。どのページを読んでも、はっとさせられる。

抱擁家族

小島信夫「抱擁家族」

アメリカ人の青年と不義を犯した妻。少しずつ崩れていく家庭。既に色々な読み解き方をされてきた作品で、主人公と妻の態度を通じて日本を描いたもの、あるいはアメリカ的なものとの出会いによる価値観の崩壊……というのが定番だが、今読むとシンプルに、他者と関わることの得体のしれなさを描いた作品として心に残る。

異質なものの混入で家族が壊れたのではなく、既にこの家族は壊れている。あるいは人間関係というものは自壊する構造を持っていて、そこに異質なものが入ってくる様子を喜劇として描いている。ぎこちない文章がかえって気持ち悪さを出している。

曾根崎心中・冥途の飛脚ほか

近松門左衛門「曾根崎心中・冥途の飛脚 他五篇」

掛詞などを多用した浄瑠璃の特殊な文体は、慣れない身には意味を掴みづらいが、流れるような詞の響きは現代の文学には存在しないもの。遊女に入れ上げて心中……なんて、しょうもない話だが、それでも最後の道行で泣けてしまう美しさがある。
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おかしな二人

ニール・サイモン「おかしな二人」

妻と別れただらしない男と、几帳面すぎる故に結婚生活が破綻した男。バツイチの男同士で始まった同居生活。二人の関係は次第に夫婦のようになっていき、やがてその“結婚生活”も再び破綻する。

ほぼ半世紀前の作品で、今となってはありきたりに思えるような設定だけど、登場人物がいきいきと動くさまは似たような作品を寄せ付けない。コメディのひとつの完成形と思えるテンポの良さ。

わが町

ソーントン・ワイルダー「わが町」

ありふれた人生。いつかこの世を去り、次第に人々の記憶からも消えていく。生きることの永遠不滅な部分はどこにあるのだろう。平凡な町の、平凡な人々の、平凡な日々。

“舞台監督”の語りを挟むことで読み手=観客の視点を物語から常に引いた場所に位置させ、ありふれた内容から普遍的なものを描く。普遍化ということの見本のような作品。物語そのものには何も特別さがないため、心に残ったものを言葉で掴むのが難しい。

家郷の訓

宮本常一「家郷の訓」

宮本常一の代表作の一つ。地域社会で子供がどう育てられたのか、故郷・周防大島での、幼少期の自らの経験をもとに綴った克明な生活誌。一種の自伝ともいえ、ただ静的で、因習にとらわれているだけではなかった村の生活が鮮やかに記されている。
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