岩下尚史「名妓の夜咄」
新橋芸者の聞き書き。
花柳界は小説から映画、音楽までさまざまなジャンルの舞台となってきたが、イメージ先行の創作が多く、その実態を丁寧に記録したものはほとんど無い。戦前から戦後にかけての花街の様子が伝わる貴重な一冊。
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読んだ本の記録。
岩下尚史「名妓の夜咄」
新橋芸者の聞き書き。
花柳界は小説から映画、音楽までさまざまなジャンルの舞台となってきたが、イメージ先行の創作が多く、その実態を丁寧に記録したものはほとんど無い。戦前から戦後にかけての花街の様子が伝わる貴重な一冊。
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瀬戸内晴美「恋川」
昭和を代表する文楽人形遣いの一人、桐竹紋十郎の生涯を縦軸に、男の芸の世界を描きつつも、基本的には著者らしい女の物語。 紋十郎本人の女出入りに、その弟子、さらに語り手の友人の不倫関係が重なって綴られる。これら全てが、浄瑠璃に語られる男と女の物語の繰り返しにも感じられる。
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溝口敦「食肉の帝王 同和と暴力で巨富を掴んだ男」
補助金詐欺事件が明るみに出るまでメディアでもほとんど取り上げられることのなかった食肉業界のドン、浅田満。政・官・行・暴・同和に独自のネットワークを築き、アンタッチャブルな存在として肥え太っていく。
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井原今朝男「中世の借金事情」
中世以前の社会は、売買による経済よりも貸付取引による経済が先行していた。古代の出挙米をはじめ、中世には年貢公事なども請負者による前納、代納の仕組みが整い、貸借関係が社会を支えていた。ただその債務債権関係は現代とは大きく異なり、質流れには債務者の同意が必要で、返済の期日を過ぎても担保の所有権は移転せず、何年経っても返済すれば元の持ち主に返却されたという。また利率に制限は無かったが、利息は元本の2倍までとする総量規制がされ、利子は無限に増殖するものではなかった。
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古川日出男「冬眠する熊に添い寝してごらん」
破格のスピードとスケール。明治の石油採掘村から現代の回転寿司屋まで、 現在と過去が複雑に溶け合う。2年前に蜷川幸雄演出で上演された戯曲で、ト書きに「時空は変容する」というような挑戦的な表現がしばしば出てくる。蜷川の演出は圧巻(舞台にそびえる“犬仏”や、客席通路までコンベアーを設置した巨大な回転寿司屋のセット、etc.)だったが、改めて戯曲を読んでみて、文学作品としても優れていると感じた。「あらゆるエネルギーは欲望する」という言葉に表されるように、近代日本のエネルギー史に、国家と個人の欲望が渾然一体となって描かれる。古川日出男は基本的には長編小説の作家だと思うが、戯曲もこの1作で終えてしまうのは惜しい。