開高健「最後の晩餐」
食談。開高健はとにかく文章が優れている。くどいようで軽妙自在。とらえどころの無い脱線をする豊かな知識。「女と食が書けたら一人前」という文壇の格言に対し、戦争などの極限状態を扱った作品以外で食がまとも描かれたことがないと鋭い指摘をしつつ、開高の筆は「筆舌に尽くせない」に逃げない。高級料理から唐代の喫人まで果敢に遡上にあげていく。所々に挟まれる安岡章太郎や遠藤周作、吉行淳之介といった作家仲間の馬鹿話が面白い。
読んだ本の記録。
南木佳士「ダイヤモンドダスト」
信州の別荘地に建つ病院で働く看護師や医師を主人公とした短編集。シンプルだが澄んだ文章。死を静かに見つめる感性は、医師としての経験によるものか。表題作以外の3編はタイの難民キャンプでの医療従事経験が下敷きとなっている。
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山川静夫「大向うの人々 歌舞伎座三階人情ばなし」
劇場の三階席後方から声をかける「大向こう」。静岡から上京した著者は大学時代に歌舞伎にはまり、自らも大向こうになる。タイミング良く声をかけるには話の筋を覚えているだけでなく、義太夫や長唄の知識も不可欠。それは趣味というより一つの芸、生き様に近い。
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中島らも「今夜、すベてのバーで」
重度のアルコール依存症だった著者が、連続飲酒で入院した病院での日々をもとに綴った小説。「酒をやめるためには、飲んで得られる報酬よりも、もっと大きな何かを、『飲まない』ことによって与えられなければならない。それはたぶん、生存への希望、他者への愛、幸福などだろうと思う」。飄々としたゆるい描写の中に、ところどころ透徹した視線が見え隠れするのが著者らしい。
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