荒野へ

ジョン・クラカワー「荒野へ」

アラスカで餓死した青年。彼はなぜ荒野を目指したのか―。映画「Into the Wild」の原作ノンフィクション。

究極の自由は自分からの自由にしか存在しない。
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アサッテの人

諏訪哲史「アサッテの人」

アサッテの方を向いた言動を繰り返す叔父。意味から逃げようとし、それが結局、定型化して意味に絡み取られてしまう。

こう書いてしまえば新しさは無いが、作中の細かなエピソードに魅力があるし、完成度は非常に高い。この小説自体が様式化への抵抗でありながら、どこか既視感があるものになっている。意味から逃げることの不可能性を、著者が意識したかは分からないが体現している。

宇宙は本当にひとつなのか ―最新宇宙論入門

村山斉「宇宙は本当にひとつなのか ―最新宇宙論入門」

暗黒物質とは。異次元とは。宇宙の何が分かっていて、何が謎なのか。非常に分かりやすく読みやすい一冊。

知識は無いけど、時々この手の本が無性に読みたくなる。著者の「宇宙の研究をしているととても謙虚な気持ちになります」との言葉通り、スケールの大きさに日常の些事がどうでも良くなる。精神安定剤にも。

池袋ウエストゲートパーク

石田衣良「池袋ウエストゲートパーク」

IWGP1作目。娯楽小説の傑作。「池袋」というひとつの世界を作り上げていて、素材はありがちでも、キャラ作りとか、テンポの良い展開とか、漫画的な魅力で引き込まれる。

オレオレな文体は個人的に好きじゃないけど、読み進めるうちに気にならなくなった。

アヒルと鴨のコインロッカー

伊坂幸太郎「アヒルと鴨のコインロッカー」

ミステリとしては不自然さも残るが、構成が巧くて最後まで一気読み。

本屋襲撃にペット殺し、“3人の物語”に途中参加した僕が戸惑うように、読んでいるこちら側も翻弄される。青春小説としても良い感じ。

猫鳴り

沼田まほかる「猫鳴り」

子を流産した夫婦や思春期の少年のもとに現れ、不思議な存在感を見せる猫。

よくある“心温まる動物もの”ではなく、第1、2部は、登場人物それぞれの人生を通じて濃密な負の心理描写が続く。その分、老いた主人公と老猫の静かな日々がストレートに描かれる第3部が胸を打つ。

ポートレイト・イン・ジャズ

和田誠、村上春樹「ポートレイト・イン・ジャズ」

和田誠が描いたミュージシャンの肖像に村上春樹が短いエッセイを付けたもの。文章は気障すぎるけど、ジャズへの思いが伝わってきて、読んでるこちらも色々と聴きたくなる。

名盤ガイドや評伝とは違って非常に個人的な内容だけど、音楽を聴くってのは本来はこういうことなんだな、と思う。

夏光

乾ルカ「夏光」

スナメリの祟りでできた顔の痣。耳の奥から鈴の音がする少年……。

ホラーというより、不気味なタッチで世界の残酷さ、少年時代の切なさを描いた感じ。子供の視点が瑞々しくて、デビュー作とは思えない完成度の高さ。
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小銭をかぞえる

西村賢太「小銭をかぞえる」

自分の屑さを客観視し、エンターテイメントとして提示する。この視点はかつての私小説には無かった(というより、ここまであっけらかんとしていなかった)もので、読みながら共感はできないが、大変面白い。

町田康が解説で“自由の感覚”と呼んでいるのがしっくりくる。
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鳥の歌

パブロ・カザルス「鳥の歌」

カザルスの発言と短いエピソード集。自由と平和を何よりも希求し、音楽の力を信じた高潔さの一方、現代音楽に耳を貸さない頑固さも伺えて面白い。

シンプルな内容だけど、愛にあふれた一冊。
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