地図から読む歴史

足利健亮「地図から読む歴史」

地形や地名に残された微かな意志の断片をもとに歴史を読み解く歴史地理学のエッセンスが詰まった一冊。

郡境がなぜ今のように定まったのか、信長がなぜ安土に城を築いたのか、飛鳥をあすかと読む理由は……。本当に面白くて刺激的な分野。
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宵山万華鏡

森見登美彦「宵山万華鏡」

タイトル通り、宵山のにぎわいの中で起こる不思議な出来事が万華鏡のようにくるくると綴られていく連作短編集。幻想的な話、馬鹿げた話が混ざり合って、宵山の雑踏の中に自分も身を置きたくなる。

大阪 地名の由来を歩く

若一光司「大阪 地名の由来を歩く」

大阪には変わった地名が多い。道頓堀や心斎橋を始め、人名由来のものが多いのは、江戸と違って架橋や開墾などの土木工事が民間主体だった影響だろうか。難読地名の由来が、当初の地名がなまっただけというのも、なんだか土地柄を感じさせて面白い。

地名は、そこに生きてきた人たちの歴史を何よりも感じさせる。合併や行政上の都合でそれが消えていくのは寂しい。

千年の愉楽

中上健次「千年の愉楽」

“死んだ者や生きている者らの生命があぶくのようにふつふつと沸いている”路地の産婆、オリュウノオバと若くして死ぬ中本一統の澱んだ血。改行や句読点が少なく読誦のように紡がれる文章。小説としてのコンセプトは紀州版「百年の孤独」だろうけど、文章の端々から土地の匂い、“夏芙蓉”の香りが漂ってくるよう。
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アジアにこぼれた涙

石井光太「アジアにこぼれた涙」

「旅行人」に連載されていたもの。アフガントラックの絵師、スラムの少年の夢、日本人に捨てられたジャカルタのニューハーフ……。最近相次いで本を出している著者だが、これは特に思い入れのあるエピソードを集めたのだろう。どれも非常に強い印象が残る。
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犯罪

フェルディナント・フォン・シーラッハ「犯罪」

「犯罪者」の人生を描く連作短編集。哀しみ、希望、不気味さ、いろいろな要素があるけど、情景描写がほとんど無く、多くの人の人生を淡々と語っていくその文章の速度に引き込まれる。久しぶりに海外の短篇集で本当に面白いと思った。登場人物に移民がたくさん出てきて、非常に現代ドイツ文学らしい作品でもある。

安政五年の大脱走

五十嵐貴久「安政五年の大脱走」

断崖絶壁の山の上、天然の要塞に捉えられた南津和野藩士51人。武士の誇りや友情や恋やその他諸々をストレートに詰め込んだ娯楽時代小説。物語の核となる場面は穴を掘るだけだし、展開にひねりも無いけど、やたらと面白い。