三島由紀夫「午後の曳航」
過剰な自意識から来る俗世間への憎悪。個人的には三島由紀夫はなかなか難しい。耽美的というのとも違うし、時代も感じる。それでも強烈な魅力と迫力があるのは、三島自身のアンバランスさ、精神的な未完成さが作品に染み出しているからだろうか。読んでいて、物語の筋以上に気持ちの悪いものが残る。
読んだ本の記録。
今田洋三「江戸の本屋さん ―近世文化史の側面」
京都から始まった日本の出版産業。出版点数を見ると18世紀後半、天明から寛政にかけて一気に上方から江戸へと中心を移したことが分かる。ただ江戸期の書商はいずれも明治になると姿を消した。
文化の変遷は出版から見ると質、量とも非常に分かりやすい。紙メディアとともに出版業そのものが岐路に立つ今、改めてその文化的な役割を考えさせられる一冊。
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宇野常寛「リトル・ピープルの時代」
ビッグ・ブラザーが壊死していった時代、村上春樹は時代の先を行く想像力を持っていたが、今や現実がその想像力を追い越して捉えきれずにいる、との指摘から始まるサブカル分析。
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サン=テグジュペリ「ちいさな王子」
光文社の新訳。「星の王子さま」で知られる内藤濯訳を読んだのは中学か高校の時だったから良く覚えていないけど、この新訳は童話調の表現を廃したシンプルな文体で、物語の芯がよりはっきり浮かび上がっている。70年前の作品というのが信じられない。大人向けの寓話としてはこれ以上のものは存在し得ないだろう。
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