謎の独立国家ソマリランド

高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」

圧巻。事実上の独立国家ソマリランド、海賊国家プントランド、そして無政府地帯。不可能と思えるような地域を旅してエンターテイメントに仕立てあげながら、氏族の構造や政治体制、歴史にまで踏み込んでいて、著者の取材力に脱帽。現在の“ソマリア”に関するほぼ唯一の日本語文献として、資料的な価値も高い。
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芝居の神様 島田正吾・新国劇一代

吉川潮「芝居の神様 島田正吾・新国劇一代」

98歳で亡くなる直前まで芝居に生きた島田正吾の評伝。澤田正二郎の急死から、島田・辰巳柳太郎の二人による黄金期、緒形拳の退団を経て、後継者の不在、低迷、解散に至るまで新国劇の歴史を描く。

解散と辰巳の死去後、島田は新国劇の代表作を一人芝居にアレンジして上演を続けた。生涯を捧げた、という表現がこれほどふさわしく、魅力的な人はいない。

プロメテウスの罠3

「プロメテウスの罠3 福島原発事故、新たなる真実」

シリーズ3冊目。内容は少しずつ地味になってきたけど、病院や高齢者などの避難のリスク、除染、がれきの処理など、かえって大切なテーマが増えた。

原発爆発後に町民にヨウ素剤を配った三春町については、これまで称賛も含めて表面的な扱いにとどまっていたが、大熊町から避難してきた専門知識のある職員がいて、風向きも見て判断した経緯が明らかにされている。

また、除染でもがれきの広域処理でも電通に巨額の広告代が流れていること、東洋町が最終処分場の調査受け入れ表明をした際に、裏で山師のような人物が動いていたことなどもとても興味深い。

テロルの決算

沢木耕太郎「テロルの決算」

17歳のテロリストと左派の老政治家。演説会の壇上で山口二矢の短刀が浅沼稲次郎の胸を貫く一瞬まで、二人の人生を丁寧に描いたノンフィクション。

山口二矢の心情だけでなく、“庶民”として戦争協力の道を歩まざるを得なかった苦悩など、浅沼の評伝としても非常に興味深い。

一つの事件を扱ったノンフィクションとしては、これ以上のものは書き得ないのでは。新聞でも何でも、加害者の報じ方の安っぽさと想像力の欠如が、被害者の人生をも貶めている。

サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か

ミチオ・カク「サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か」

フォースフィールド、ライトセーバー、デススター、テレポーテーション、不可視化、念力……SFに出てくる技術が実現可能か、物理学の立場から本格的に考察した一冊。永久機関と予知能力以外は物理法則には反しないとして、実現のための課題を解説している。

ほとんどの技術は莫大なエネルギーをいかに調達し、制御するかの問題につきる。後半になるにつれて科学の門外漢には少し難しくなるけど、とても刺激的な一冊。

沢木耕太郎「凍」

山野井泰史、妙子夫妻によるギャチュンカン北壁登攀の記録。

下山時の細かな描写が圧巻。悪天候につかまり、吹雪、雪崩、宙づり、岩壁に張り付いてのビバーク、そして疲労の中、徐々に視力が失われていく。
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ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年

奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年」

出生直後に病院で取り違えられた二人の少女とその家族の17年にわたる克明な記録。

血液検査がきっかけで取り違えが発覚した後、両家族は小学校入学を目前に再び子を交換する。6年の月日は重く、子供たちは実の親にも新しい環境にも馴染めず、互いの家庭を行き来する不安定な交流が続く。
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2100年の科学ライフ

ミチオ・カク「2100年の科学ライフ」

2100年、科学はどこまで進歩し、ライフスタイルはどう変わっているか。医療やナノテクノロジー、エネルギー、宇宙開発などの分野について、現在の課題と今後の発展を考察した一冊。

シリコンに替わる素材や並列処理でムーアの法則の終焉を避けられるのか、パターン認識と常識を人工知能に盛り込むことができるのか、宇宙開発におけるコストの問題…などなど。
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下下戦記

吉田司「下下戦記」

「苦海浄土」が人間の尊厳を奪う水俣病の悲惨さを描くと同時に逆説的な人間賛歌となっているのに対し、「下下戦記」は文学的に昇華されることを徹底的に拒否している。
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