中世の東海道をゆく ―京から鎌倉へ、旅路の風景

榎原雅治「中世の東海道をゆく―京から鎌倉へ、旅路の風景」

飛鳥井雅有(鎌倉時代の公家)の日記などの文献資料をもとに、“五十三次”以前、中世の東海道の姿を考察する。

日記の記述と合わせ、当日の潮汐推算までして地形や通過時間を割り出す分析はかなりマニアック。海沿いに平野が広がっていたというよりも多くの湖沼が点在していたことや、木曾川がかつては別の川を指していたとの指摘、浜名湖が明応地震以前から海水が逆流する汽水湖だった可能性など、かなり面白い。

和歌一つとっても、ただ言葉を捉えるだけでなく、当日の場所と状況を細かく分析することで違う姿が見えてくる。文献研究とはこれほど奥深いのか。

西南シルクロードは密林に消える

高野秀行「西南シルクロードは密林に消える」

忘れ去られ、密林に消えた西南シルクロード。中国からビルマに密入国し、カチンやナガのゲリラの手引きでジャングルを横断し、インドへ。あまりに無謀な旅なのに、深刻さや悲壮感があまり無いのが著者らしい。
“西南シルクロードは密林に消える” の続きを読む

世界一周ひとりメシ

イシコ「世界一周ひとりメシ」

旅は好きだが、一人で飯屋に入るのは大嫌い。見知らぬ街を歩くのは楽しいけど、見知らぬ店に入るのは怖い。

「常連客ばかりだったらどうしよう。頼み方がわからないかもしれない。店主が怖かったら嫌だ。そうかといって店主からやたら話しかけられても困る……」
“世界一周ひとりメシ” の続きを読む

被差別の食卓

上原善広「被差別の食卓」

フライドチキンからあぶらかすまで世界の“ソウルフード”を巡る旅。差別されているから、捨てられるものを使った料理を生み出す。忌避されるものを食べるから、差別される。新書だし、食べ歩きルポで内容的な深みはないけど、著者自身が被差別部落出身ということもあり、実体験を交えた語りが興味深い。興味本位ではなく、共感に満ちた内容。

ミャンマーの柳生一族

高野秀行「ミャンマーの柳生一族」

軍政を幕府、軍情報部を柳生一族に例えた異色の旅行記。船戸与一の取材旅行に同行してミャンマーに入った短い期間のものだが、何でもエンターテイメントに仕上げてしまう著者の力技に感動。アウンサンスーチー率いるNLDと軍政の対立について、民主化運動と単純に捉えるのではなく、少数民族側の視点でお家騒動に過ぎないとするあたり、結構鋭い指摘も。船戸与一の泰然自若ぶりも面白い。

崩れ

幸田文「崩れ」

まるで非常に重いテーマの小説かのようなタイトルだが、「崩れ」は比喩ではなく、そのまま。

大谷崩れから有珠山まで、各地の地崩れを憑かれたように見て歩いたエッセイ。
“崩れ” の続きを読む

旅行人

「旅行人165号 世界で唯一の、私の場所 《休刊号》」

一つの時代の終わりといっても大げさではないだろう。この雑誌が無くなってしまうのは本当に本当に寂しい。

最後の特集はライター、写真家、人類学者…etcのエッセイ集。どれも短いけど、それぞれの土地への思い入れが伝わってくる。

もちろん、この世に桃源郷なんてものは無いし、旅行者のセンチメンタリズムに過ぎないかもしれない。それでもそういう場所を持てる、世界には素敵な場所がたくさんあると思えるだけで、ずいぶんと幸せな気持ちになれる。
“旅行人” の続きを読む

世界屠畜紀行

内澤旬子「世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR」

アラブから芝浦まで、イラスト付き屠場紀行。

差別や動物愛護など、語ろうと思えばいくらでも語れる題材だけど、過剰な意味付けをせず、シンプルに「大切な、面白い仕事」としていきいきと描いている。
“世界屠畜紀行” の続きを読む