岡田喜秋「定本 日本の秘境」
経済成長の波がまだ地方に及んでいない昭和30年代前半に書かれた紀行文。秘境とは書いているものの、人跡未踏の地ではなく、あくまで人間の住む土地。九州脊梁山地から、神流川、大杉谷、佐田岬、襟裳岬…。中宮、酸ヶ湯、夏油といった温泉の往時の姿も興味深い。
宮本常一は「自然は寂しい。しかし人の手が加わるとあたたかくなる」と書いたが、まさにその“あたたかな風景”を求める旅。
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読んだ本の記録。
岡田喜秋「定本 日本の秘境」
経済成長の波がまだ地方に及んでいない昭和30年代前半に書かれた紀行文。秘境とは書いているものの、人跡未踏の地ではなく、あくまで人間の住む土地。九州脊梁山地から、神流川、大杉谷、佐田岬、襟裳岬…。中宮、酸ヶ湯、夏油といった温泉の往時の姿も興味深い。
宮本常一は「自然は寂しい。しかし人の手が加わるとあたたかくなる」と書いたが、まさにその“あたたかな風景”を求める旅。
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エリック・ワイナー「世界しあわせ紀行」
幸福の探求は不幸の主たる原因の一つ。それを承知で著者は“幸せな土地”を求める旅に出る。
GNHを掲げるブータン、税金の無いカタール、極寒のアイスランド、マイペンライのタイ、インドのアシュラム……
幸せな人と不幸な人を分ける境はどこにあるのだろう。そしてそれに社会制度や文化、風土が影響を与えるのだろうか。そもそも幸福こそが最も価値あるものなのか。
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ラフカディオ・ハーン「新編 日本の面影」
ハーンの代表作の一つ、「知られぬ日本の面影」の新編集版。ただの紀行文にとどまらない記述の密度に驚かされる。かなり丁寧に話を聞き、寺社仏閣の由来から民間伝承まで細かく書き込んでいる。情景描写は小説のよう。
「神々の国の首都」「杵築」「日本の庭にて」などでハーンの書く日本はこの上なく美しい。
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鈴木紀夫「大放浪 ―小野田少尉発見の旅」
フィリピン・ルバング島から小野田少尉を帰国させた青年、鈴木紀夫。60年代末、学生運動に馴染めず海外に出た、と言えば聞こえがいいが、実際は幼さに任せた大放浪。行く先々で奔放に振る舞い、人の世話になり、時に迷惑をかけつつ、自分は特別なことをしているという感覚は抜け切らない。藤原新也や沢木耕太郎に近い世代だが、「印度放浪」や「深夜特急」に比べ、ずいぶんと自分に正直で痛快な旅行記。
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蔵前仁一「あの日、僕は旅に出た」
初めてのインド、仕事を捨てての長旅、「遊星通信」の発行、「旅行人」の出版、休刊……蔵前仁一の30年。
「深夜特急」の沢木耕太郎や「印度放浪」の藤原新也に憧れて旅に出た人は多いだろうが、旅に精神性を求めない普通の個人旅行者のスタイルを定着させたのはこの人だろう。旅行記にありがちな、自分探しのナイーブさも、インドかぶれのような説経臭さもそこには無い。
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高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」
圧巻。事実上の独立国家ソマリランド、海賊国家プントランド、そして無政府地帯。不可能と思えるような地域を旅してエンターテイメントに仕立てあげながら、氏族の構造や政治体制、歴史にまで踏み込んでいて、著者の取材力に脱帽。現在の“ソマリア”に関するほぼ唯一の日本語文献として、資料的な価値も高い。
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野田正彰「狂気の起源をもとめて −パプア・ニューギニア紀行」
約30年前にパプア・ニューギニアの高地で精神病患者の診察を行った記録。精神医学の知見や「分裂病」という表記に時代を感じるけど、西洋文明が入り始めた社会を回った紀行文としても読み応えがある。
高地の村では分裂病の患者は少なく、以前から西洋文明と接触があった海岸部では、日本と同じような症状がみられたという。
精神疾患の発生とその慢性化は「自己と他の関係がかなり固定している文化」と「個性の確立を通して社会と直面する文化」の差に影響される。伝統社会では狂気も文脈付けられ、受容される故、一時的なもので終わることが多いのだろう。