深夜特急1 香港・マカオ

沢木耕太郎「深夜特急1 香港・マカオ」

以前は旅行記の類はあまり面白いと思わなかった。就職して長旅が出来なくなってから、時々手に取るようになった。バックパッカーのバイブルとも言われるこの「深夜特急」も大学生の頃、インドかどこかの宿で誰かが置いていったものを読んだことがあるが、自分自身がまさに旅をしている時にはそれほど惹かれなかった。

改めて読み返してみて、旅を追体験―というよりも再度体験しているような気持ちになれた(第1巻に書かれている香港もマカオも実際は行ったことがないけど)。市場の熱気、安宿のよどんだ空気、初めての土地に降り立った時の“自由”の感覚――。自分が旅に出る前にこの本を読んでいたら大いに影響を受けただろうし、逆に当時は旅の最中に読んだから今読む必要はないと感じたのだろう。

思えば、大学生の頃には小説もあまり読まなかった。逆に高校生の頃は小説しか読まなかった。再び小説を欲するようになったのは就職してから。自由が無くなった時に物語や旅行記を求める。本は昔から変わらずに読んでいても、その動機はその時々で結構変わっているようだ。

謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉

高野秀行「謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉」

納豆というと日本独自の食べ物かと思ってしまうが、東南アジアの山岳部などにも日本とほぼ同じ納豆が存在するという。著者はかつてミャンマー北部、カチンの密林で出会った納豆を思い出し、納豆探求の旅に出る。
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日本全国津々うりゃうりゃ

宮田珠己「日本全国津々うりゃうりゃ」

相変わらずの面白さ。旅エッセイといっても、旅行の中味ではなく、文章のとぼけ具合で読ませてしまう希有な書き手。青森に行って石を拾ったり、自宅の庭を一周するだけだったり、何かというと旅の内容そっちのけで自分の趣味の海の生き物のウンチクを延々と綴ったり。好みは分かれるだろうけど、個人的にはツボ。

日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?

田中康弘「日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?」

マタギの取材を長年続けてきた著者が、西表島の猪から礼文島のトドまで、各地の猟に同行したルポ。日本人は決して農耕一色の民族ではない。むしろ何でも食べる。猟の方法も興味深いが、何より、その後の解体、調理の生き生きとした描写に引き込まれた。
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外道クライマー

宮城公博「外道クライマー」

エンタメ系ノンフィクションでは、早くも今年ベストと呼び声高い一冊。2012年、那智の滝に登り逮捕されたクライマーが綴る“山ヤ”よりも無茶苦茶な“沢ヤ”の世界。籔をかき分け、あえて谷底に入り、死と隣り合わせでゴルジュを正面突破する。沢ヤに比べれば、アルパインクライマーのなんと常識的なことか。馬鹿馬鹿しさを突き抜けて、次第に神々しく見えてくる。
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みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記

星野博美「みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記」

戦国~明治にかけ、日本は4万人とされるキリシタンの殉教者を出した。棄教すれば命は許された一方で、棄教を拒めば火あぶりや熱湯責めなどの過酷な拷問が行われた。なぜ信徒たちは信仰を貫き、神父らも国外追放を拒んで命を投げ出したのか。著者はその疑問を抱いてキリシタンの足跡をたどる旅に出る。
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青春を山に賭けて

植村直己「青春を山に賭けて」

植村直己の自伝。 今さらながら手にとって、予想以上に面白くてびっくり。アメリカやヨーロッパで肉体労働をしながら資金を稼ぎ、モンブランやキリマンジャロへ。アコンカグアの後にはアマゾンを筏で下る。旅や登山の商業パッケージ化が進む前の冒険物語で、読んでいてわくわくする。
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秋の日本

ピエール・ロチ「秋の日本」

仏作家、ピエール・ロティの日本滞在記。

明治期に日本を訪れて記録を残した外国人は大勢いるが、ロティはラフカディオ・ハーンなどと比べるとかなり率直な旅行者の視線=軽侮や驚き混じりの感想を記していて、だからこそ、現代の旅行記と似た感覚で面白く読める。京都駅で人力車の客引きに囲まれる所など、バックパッカーのインド旅行記のよう。
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巨流アマゾンを遡れ

高野秀行「巨流アマゾンを遡れ」

アマゾンを河口ベレンから源流のミスミ山まで遡る。といっても密林をかきわけて進むような冒険ではない。アマゾン本流はあくまで人々の生活の場。町から町へ、人から人へと繋がっていく旅。著者が大学生の頃にまとめた旅行記で、少し肩に力が入った感じの文章も面白い。

自分も大学の頃に南米を一ヶ月半ほど旅したけど、アンデス地域のみだった。こんな旅もしてみたかった。