あなた、と二人称で綴られる、ある女性ダンサーの旅の情景。パリ、ザグレブ、北京、ハバロフスク、ハンブルグ、ボンベイ――。あなたは、夜行列車の車内で奇妙な人々と出会い、時に現実と夢の境界が曖昧になる。
“容疑者の夜行列車” の続きを読む
猫を棄てる 父親について語るとき
父について綴ったエッセイ。趣味や日常生活については多くの文章がある作家だが、家族や生い立ちについては断片的な事柄しか書いてこなかっただけに、創作の背景が分かる貴重な資料でもある。
“猫を棄てる 父親について語るとき” の続きを読む
失われた旅を求めて
曲がれ!スプーン
上田誠「曲がれ!スプーン」
*戯曲(読み物)としての面白さ。上演は☆5
「曲がれ!スプーン」(冬のユリゲラー)と「サマータイムマシン・ブルース」。ともに映画化もされた劇団「ヨーロッパ企画」の初期の代表作2本。
“曲がれ!スプーン” の続きを読む
希望の国のエクソダス
「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」
景気の停滞が続き、国際金融資本の食い物にされる日本。集団不登校となった中学生たちがインターネットを駆使したビジネスを始め、国家から独立した集団に育っていく。
“希望の国のエクソダス” の続きを読む
恋愛中毒
女にだらしない作家の秘書として働くようになったバツイチ女性の物語。結婚生活の失敗から心を閉ざした主人公の水無月は、既婚者の創路には都合のいい女に過ぎないことを自ら理解していたはずなのに、徐々に執着が生まれ、袋小路に陥る。
“恋愛中毒” の続きを読む
カエアンの聖衣
SFの楽しみの一つが壮大なホラ話の中にどっぷり浸かることだろう。本作のホラのスケールは別格。スペースオペラの風呂敷に、尖ったアイデアを、世界観と物語のテンポを損なわないぎりぎりの量まで詰め込んだ。思考実験的な作品や、科学・数学の論理を突き詰めたハードSFに対し、こうしたSF作品を「ワイドスクリーン・バロック」というようだ。
“カエアンの聖衣” の続きを読む
春、死なん
「高齢者の性」をテーマとして謳い、実際にそこが注目されてもいるが、描かれているのはもっと本質的な孤独、周囲の目と自我の摩擦の苦しみ。性は要素の一つに過ぎない。(高齢者の性を描いた作品はそもそも珍しくないし、本作の性に関する描写は実は少ない)
“春、死なん” の続きを読む
アリスマ王の愛した魔物
SF短編集。ライトノベルやヤングアダルト(青少年向け)に位置づけられる作品かもしれないが、それぞれに設定が面白く、年齢やSF趣味の程度を問わず楽しめる。
“アリスマ王の愛した魔物” の続きを読む
おらおらでひとりいぐも
東北で生まれ、東京五輪の年に上京、夫と死に別れ、子供とも疎遠となり、一人老いていく。74歳の「桃子さん」のとりとめのない思考を綴った小説だが、独特の文体による語りの力が、年齢や性別を超えて読者を戦後の日本社会を生きてきた一人の女性の境地に誘う。
“おらおらでひとりいぐも” の続きを読む