喜劇の手法 笑いのしくみを探る

喜志哲雄「喜劇の手法 笑いのしくみを探る」

「喜劇」は笑いを追求する他の芸能とは違う仕組みを持っている。考察は少なく、あらすじと構造の紹介が続いて読み物としてはちょっとしんどいが、名作と呼ばれる作品がいかに巧みに構築されているかが分かる。

観客が作品内の情報を、どの段階で、どの程度掴むのか。劇と観客の距離によって、同じ出来事が喜劇にも悲劇にも映る。
“喜劇の手法 笑いのしくみを探る” の続きを読む

東京原子核クラブ

マキノノゾミ「東京原子核クラブ」

理研時代の朝永振一郎博士をモデルに、戦争へと進んでいく時代の青春を描く。史実をもとにしつつも、決して“戦争もの”ではないし、評伝でも無い。仁科研の二号研究自体も既によく知られているため、科学と戦争や倫理の問題を描いた作品としての目新しさも無いけど、ストレートな青春群像劇として心に残る。最後まで爽やかさを失わず、時代に関係なく、そこに生きた人々にとって、自分だけの悩みや喜びを抱えたかけがえのない日々があったことが、すっと心に染みる。

家郷の訓

宮本常一「家郷の訓」

宮本常一の代表作の一つ。地域社会で子供がどう育てられたのか、故郷・周防大島での、幼少期の自らの経験をもとに綴った克明な生活誌。一種の自伝ともいえ、ただ静的で、因習にとらわれているだけではなかった村の生活が鮮やかに記されている。
“家郷の訓” の続きを読む

宮本常一『忘れられた日本人』を読む

網野善彦「宮本常一『忘れられた日本人』を読む」

文字資料に頼る歴史は、時代を経るごとに社会の多様さを見落としていく。

百姓、女性、老人、子供、遍歴民……日本列島の無文字社会を蘇らせる試みを続けた宮本常一。中世史家の網野善彦がその代表作を読み解く。
“宮本常一『忘れられた日本人』を読む” の続きを読む

壊れた風景/象

別役実「壊れた風景/象」

別役実の代表作のひとつ「象」。病床で原爆症に苦しみつつも、背中に残るケロイドを人々に見せびらかすことを夢見る男。原爆の悲惨さを扱った作品である以上に、圧倒的な暴力の被害を受けた時、人がどこにアイデンティティを求めて生きていくかの問題を浮き彫りにしている。
“壊れた風景/象” の続きを読む

宮沢賢治 存在の祭りの中へ

見田宗介「宮沢賢治 存在の祭りの中へ」

宮沢賢治は牧歌的なイメージとは裏腹に、作品にもその思想にも自己否定の影が付きまとう。自己否定の先、自我からの脱却の向こうに見えた存在の豊かさ、世界の美しさ。結果的に“デクノボー”として生き抜くことはできなかったが、そこに向けて、存在の祭りの中を歩き続けた。

「近代の自我の原型が、いわば偏在する闇の中をゆく孤独な光としての自我ともいうべきものであることとは対照的に、ここでの修羅は、偏在する光の中をゆく孤独な闇としての自我である」

團十郎の歌舞伎案内

市川團十郎「團十郎の歌舞伎案内」

前半は初代からの團十郎の歴史、後半は芸能としての歌舞伎の概説。十二代目團十郎自身の歌舞伎観や先代との思い出も語られていて、単なる入門書にはとどまらない内容。歌舞伎と、能や人形浄瑠璃など歌舞伎へと続く芸能に対する深い敬意が感じられる。

團十郎こそが歌舞伎の歴史であるという自負と謙虚さを兼ね備えた生き方。掛詞をいかに現代に通じるものにするかなどの問題意識も綴られている。

ニール・ヤング自伝 Waging Heavy Peace

「ニール・ヤング自伝」

 

ニール・ヤング初の自伝。自伝とはいうものの、全然時系列になっていない、とりとめのない文章がこの人らしい。音楽活動の思い出を軸としつつ、音質へのこだわりや、趣味の車、鉄道模型などなど、思いつくまま書き連ねていったかのよう。

「お察しの通り、わたしは自分の思考をほとんどコントロールできない。今までのところ、書き直しをしたのはほんの1パラグラフほどだ」
“ニール・ヤング自伝 Waging Heavy Peace” の続きを読む