天皇家の財布

森暢平「天皇家の財布」

天皇家と皇族でお金がどのように使われているのか。

公的な宮廷費と私的な内廷費、その曖昧な使い分けと憲法解釈で政教分離など様々な課題をクリアしていることなど、なかなか面白い。親王と内親王の教育費の出所、天皇と皇后の入院費用の出所がそれぞれ宮廷費、内廷費と分けていることなど、現代の感覚からすれば逆に問題があるんじゃないかと思うことも。

皇族費がどのような基準で配分されているかや、献上、賜与の上限額なども、細かな点ながら勉強になる。

砂の本

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「砂の本」

無限のページを持つ「砂の本」。難解と言うよりも、まさに、迷宮のようと言ったほうがふさわしいボルヘス晩年の短篇集。物語は難しくないのに、自分の立ち位置が分からなくなるような。表題作と冒頭の「他者」が素晴らしい。

夏の朝の成層圏

池澤夏樹「夏の朝の成層圏」

現代の、というより、二十世紀のロビンソン・クルーソー。デビュー作だけあって荒削りながら、文明観や書くという行為への姿勢など著者自身のすべてが刻印されている。

文明の外を指向しながら、あくまで都市生活者という視点。それが成層圏という言葉に表される瑞々しい浮遊感を生んでいる。

女の民俗誌

宮本常一「女の民俗誌」

「平凡だが英知にみちた生活のたて方がもっと掘り起こされてよいように思う」

日本列島の無文字社会を丹念に記録した宮本の膨大な著作から、女性に関する文章を集めたもの。

生きることへの敬意といたわりに満ちたまなざし。母処婚や姉家督制度の話からは日本社会の多様性も浮かび上がる。最後に収録された母に関する文章も美しい。

恋する原発

高橋源一郎「恋する原発」

予想以上に不謹慎、想像以上にカオス。震災チャリティーAVを巡り、原発、宗教、天皇、北朝鮮に始まり、ディズニー、AKB、けいおん……、今ぱっと思いつく限りの「批判できない空気」があるテーマをエログロ交えて書き荒らす。

十年後、二十年後まで残っているような名作とは思わないけど、面白い。こういう作品が出せるのが文学や小説の懐の深さだろう。

河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙

河北新報社「河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙」

あの時、宮城や福島にいた記者が何を感じ、どう動いたのか。取材する記者一人一人も、人間で、被災者で、でも取材者と取材対象者は決して同じ立場ではない。

少しでも多くの人に読んで、自分ならどうするか想像してもらいたい記録。

「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか

開沼博「『フクシマ』論 原子力ムラはなぜ生まれたのか」

地方が自発的、自動的に中央に服従し、原発を抱きしめていく歴史。それを説明するには財政だけでなく、文化的、心情的な側面にも触れなくてはならない。原発推進派も反対派も語ることがない立地地域の実情を丁寧に追っている。

福島、それも原発に近い地域に住んだことがある人間なら、ここに書かれていることは当たり前で目新しさは無い。原発事故前に書かれた修士論文がもとで、地方を「植民地」と位置づける考察も単純すぎる気がするが、今だからこそ多くの人に知ってもらいたい現実。

倒壊する巨塔 ―アルカイダと「9・11」への道

ローレンス・ライト「倒壊する巨塔 ―アルカイダと『9・11』への道」

アルカイダのトップ、ビンラディンとザワヒリの人生を幼年時代から追いながら、同時多発テロに至る過程を描く。

イスラム原理主義の誕生から、土建屋の空虚な熱情が先鋭化し、ジハードとしてアメリカに標的を絞るまで。人物に焦点を当てることでハンチントンの「文明の衝突」のような粗雑な理解とは対照的な9・11への道を浮き彫りにしている。
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