ハロルド・ピンター「温室/背信/家族の声」
ハロルド・ピンターの戯曲集。難解と言われる作家だが、「背信」は純粋にドラマとして引き込まれる。不倫する男と女、その夫。ほぼ三人芝居で、関係の終わりから始まりまでの場面を時間を遡って見せていく。その過程で、誰がどこまで知っていたのかが次第に明らかになり、人間関係のさまざまな“背信”が浮き彫りになる。
読んだ本の記録。
ハロルド・ピンター「温室/背信/家族の声」
ハロルド・ピンターの戯曲集。難解と言われる作家だが、「背信」は純粋にドラマとして引き込まれる。不倫する男と女、その夫。ほぼ三人芝居で、関係の終わりから始まりまでの場面を時間を遡って見せていく。その過程で、誰がどこまで知っていたのかが次第に明らかになり、人間関係のさまざまな“背信”が浮き彫りになる。
現代口語訳 「秋山記行」 (信濃古典読み物叢書8)
昔の人の旅行記を読むのは面白い。
「我々里の者は、さまざまな悩みを心身にため、欲望をほしいままにし、鳥や魚の肉を食べ散らし、悩みや悲しみで心を迷わして、日々暮らしている。これでは夏の虫が火に入り、流れの魚が餌にかかるように寿命を縮めるばかりである。少しでも暇を手にすると、私のように金銭欲や名誉欲に走り――」「できるなら、私もこの秋山に庵を結んで、中津川の清流で命の洗濯をしたい」
都市生活に疲れた現代人の嘆きのようなこの文章、いつ書かれたものだろうか。
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桐竹勘十郎「一日に一字学べば…」
桐竹勘十郎の芸は、人形に息を吹き込む、という表現が大げさではないことを教えてくれる。
14歳で入門して芸歴50年。修行の日々を振り返りつつ、文楽と人形への思いを語る。芸談というよりも、修行や仕事についての経験談となっており、文楽に興味のない人にも勧められる内容。好きであること、不安だから努力すること、自分で考えること。文楽の世界だけでなく、働くこと全般について考えさせられる。もちろん文楽の入門書としても優れた一冊。
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池澤夏樹=個人編集 日本文学全集03
竹取物語/伊勢物語/堤中納言物語/土左日記/更級日記
中高の授業で古典嫌いを量産してきただろう作品群がユニークな現代作家の手を経て生まれ変わった。
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伊集院静「なぎさホテル」
作家としてデビューする前後の20代後半から30代にかけて「逗子なぎさホテル」で過ごした7年間を随筆風に綴った小説。妻と別れ、会社も辞めて借金にまみれ、宿泊費も満足に払えない若者を家族のように迎えてくれた支配人をはじめとする人々の温かさに、読んでいるこちらも心が安らぐ。この期間の重要な部分を占めただろう夏目雅子との日々についてはほとんど触れられていないが、これは著者の哲学によるものだろう。
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松永正訓 「運命の子 トリソミー: 短命という定めの男の子を授かった家族の物語」
悲しみや苦しみは幸せの対義語と考えてしまいがちだが、それは比べられるものではなく、悲しみや苦しみと同時に幸せは存在しうるということを思わされた。喜びとつらさのどちらが大きいかという比較も意味がない。
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中上健次「鳩どもの家」
中上健次の初期作3本。薬でラリった予備校生の無為な日々を綴る「灰色のコカコーラ」は、村上龍の「限りなく透明に近いブルー」を連想させるが、村上龍が中上のこの作品の影響を受けたようだ。
こうした初期の作品から路地を舞台にした一連の作品群へと達したのが不思議なような気もする一方、最後の「五錠は母のため、後の五錠は兄のため、姉のためにも三錠――」とドローランを飲む場面からは、やはり中上は最初から書くべきものを持っていた作家という印象を受ける。
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池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10
能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵
池澤夏樹編集の日本文学全集。収録作のセンスも光るが、何より古典の現代語訳者のセレクトが面白い。町田康の宇治拾遺物語、古川日出男の平家物語、角田光代の源氏物語など、組み合わせを聞いただけで、小説好きなら手に取らずにはいられない。
この10巻は能・狂言に説経節、浄瑠璃という芸能分野の作品が収められている。今でこそ馴染みが薄れた作品群だが、どれも中世から江戸時代にかけて広く知られ、日本人の心性を作ってきた物語として必読(教科書に載っているような古典よりずっと影響力があっただろう)。何より「女殺油地獄」の現代性や「菅原伝授手習鑑」「仮名手本忠臣蔵」の構成の妙など、決して古びてなく、純粋に読み物として引き込まれる。訳のレベルも高く、謡い、語られるための曲をどう現代の散文に訳すかに作家の個性がはっきりと出ていて面白い。
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ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福(下)」
下巻は第三の革命である「科学革命」について。認知革命による虚構を語る能力と、農業革命による生存基盤の安定化は科学革命を引き金として人類に爆発的な繁栄をもたらした。知的好奇心と帝国主義、科学の発展と進歩主義、そして資本主義が結びついて現在の世界を作り上げた。
著者はサピエンス史を締めくくるにあたり、「幸福」とは何かという問いを経て、人類の未来についての考察を行う。生命工学の進歩で種としてのサピエンスの歴史は終わりを告げるかもしれない。身体の改変や、情緒の操作などが行われるようになれば、それは既に別の種だ。我々は“原人”になるかもしれない。現時点ではSFのような現実離れした話に聞こえても、百年、千年という長期的な視点に立てば、倫理的な軛などいずれは乗り越えられてしまうだろう。
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