山下澄人「しんせかい」
作中では【先生】【谷】としか書かれないが、倉本聰が主宰していた「富良野塾」での日々を綴った小説。
19歳。【先生】のこともよく知らなければ、俳優になりたいという強い思いがあるわけでもない。たまたま目にした新聞記事を見て飛び込んだ【谷】は、俳優教室というよりは小さな共同体で、日々小屋作りや農作業に追われる。
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読んだ本の記録。
山下澄人「しんせかい」
作中では【先生】【谷】としか書かれないが、倉本聰が主宰していた「富良野塾」での日々を綴った小説。
19歳。【先生】のこともよく知らなければ、俳優になりたいという強い思いがあるわけでもない。たまたま目にした新聞記事を見て飛び込んだ【谷】は、俳優教室というよりは小さな共同体で、日々小屋作りや農作業に追われる。
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ランドール・マンロー「ホワット・イフ? ―野球のボールを光速で投げたらどうなるか」
多彩な質問にユーモアたっぷりの回答。
著者はNASAで働いた経験を持つ理系漫画家。ウェブサイトに寄せられた「空気圧で肌を温めるにはどれくらい早く自転車をこげばいいか」「どのくらいの高度から肉を落としたらステーキが焼けるか」といった質問に、シュールなイラストを交えて、科学的知見で回答する。
たとえば、表紙に書かれている「光速の90%で野球の球を投げたら」という質問。著者によると、空気とボールの表面で核融合が起こり、球場内の空気が高温のプラズマと化す。急激な膨張と大爆発によって球場の周囲1.5km以内のすべては消え去るが、結論は「MLB規則6.08(b)によれば、この状況では、バッターは死球を受けたと判断され、1塁に進むことができるはずだ」。
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スティーヴン・ウィット「誰が音楽をタダにした? ─巨大産業をぶっ潰した男たち」
「音楽を手に入れることだけが目的じゃなかった。それ自身がサブカルチャーだったんだ」
よくあるネット史の概説書かと思いきや、一級のノンフィクション。事実は小説より奇なり。音楽が無料で(その多くは違法で)流通するのは、何となくインターネットの発達の必然で、自然にそうなったような気がしていたが、あくまで人の物語なのだ。“音楽をタダにした奴ら”の姿を丁寧に追っていく著者の筆致は、下手な小説よりもスリリング。音楽好き、ネット好き必読。
恒川光太郎「夜市」
表題作と「風の古道」の2本。さまざまな世界が混ざり合い、対価さえ払えば何でも手に入る夜市。魑魅魍魎が闊歩し、世界の裏側を通って各地をつなぐ不思議な古道。設定だけ書いたら既視感のある話だが、舞台の見せ方や物語の進め方が巧みで、それがシンプルな文体と相まって非常に魅力的な世界を構築している。
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読みながら気分が沈んでいく。ただ中学、高校で“強者”として生きてきた人には全くピンとこない小説だろう。
こじらせた初恋の物語。といっても最近よく使われるコメディチックな「こじらせ」ではなく、歪んで、暗く、痛々しい。
“しろいろの街の、その骨の体温の” の続きを読む
日本語は世界的に見ても非常に多様な表現形態を持っている。
池澤夏樹選の日本文学全集30巻は、文体のサンプル集とでも言うべき内容。祝詞や経文、漢詩から、琉歌(琉球語の定型詩)や、アイヌ語の文章まで。聖書の翻訳や、ハムレットの独白もそれぞれ6種類収録され、日本語の幅の広さがよく分かる。
“日本語のために 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集30” の続きを読む
池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11
好色一代男/雨月物語/通言総籬/春色梅児誉美
江戸文学の豊かさとレベルの高さがよく分かる一冊。
「好色一代男」は“女3742人、男725人”と交わった男、世之介の一代記。7歳から60歳までを1年1話で綴り、1話完結の連載漫画のようなテンポの良さ。世之介、7歳、夏の夜。子守の女中に「恋は闇というのを知らないか」と迫り、10歳で早くも男色に目覚める。後半にいくにつれて徐々にマンネリ化していくのも連載漫画っぽい。 “好色一代男、雨月物語ほか 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11” の続きを読む
池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09
古川日出男訳「平家物語」
祇園精舎の鐘の声/諸行無常の響きあり/沙羅双樹の花の色/盛者必衰の理をあらはす
冒頭の文章は誰でも知っているのに、ちゃんと平家物語を読み通したことがある人は少ないのでは。古川日出男は壮大な軍記物語を、現代の小説の文体を取らず、あくまで琵琶法師の語りとして現代に蘇らせた。
「祇園精舎の鐘の音を聞いてごらんなさい。ほら、お釈迦様が尊い教えを説かれた遠い昔の天竺のお寺の、その鐘の音を耳にしたのだと想ってごらんなさい。
諸行無常、あらゆる存在(もの)は形をとどめないのだよと告げる響きがございますから」
“平家物語 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09” の続きを読む
葛西聖司「僕らの歌舞伎: 先取り! 新・花形世代15人に聞く」
次代の花形15人のインタビュー集。
松也、梅枝、歌昇、萬太郎、巳之助、壱太郎、新悟、右近、廣太郎、種之助、米吉、廣松、隼人、児太郎、橋之助。一人一人の人柄が滲むと同時に、誰に、いつ、どんな教えを受けたのかを具体的に聞いていて、芸の継承や人間関係が分かって興味深い。歌舞伎は家柄が重視されるが、同時に家柄だけで花咲くこともない厳しい世界。15人とも勉強熱心。
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池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08
日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集
鎌倉時代に成立したとされる「宇治拾遺物語」。煩悩を断ち切るために陰茎を断ち切った、という僧侶が貴族の家を訪れ、証拠として下半身を露出。主の命を受けた小僧が下半身の密林を探ると、刺激を受けたモノが巨大化して噓が露見。という話(「玉茎検知」)があって、高校生の頃に読んで度肝を抜かれたことを思い出す。
“池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08” の続きを読む