歌舞伎 型の真髄

渡辺保「歌舞伎 型の真髄」

動きから衣装、化粧、舞台美術、さらには役の内面まで歌舞伎の演目には複数の型がある。近代の舞台芸術なら演出家に従属する要素が、個々の役者に備わるのが面白い。だからこそ、歴代の役者の解釈と美意識の膨大な蓄積を芸として抱えることができる。

さまざまな役の型の違いを比較し、その型が生まれた経緯が分かる教科書のような本だが、歌舞伎初心者の自分はここに出てくる演目の3分の1もまだ見たことがないため、具体的な場面が浮かばないのが残念。

彫刻と戦争の近代

平瀬礼太「彫刻と戦争の近代」

戦時の彫刻作品について美術史で語られることはほとんどないが、実際には彫塑関係の展覧会は活況を示していたという。芸術家の戦争協力というだけの論なら新しくはないが、美術品や公共のシンボルなど位置づけがあいまいな彫刻からの視点はなかなか新鮮。
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男ともだち

千早茜「男ともだち」

主人公の女に対して同棲中の恋人が漏らす「男ともだちか」「いや、なんかずるい響きだなって」という言葉に物語の要素が凝縮されている。とにかくいろいろとずるい。序盤は「あとかた」のように器用な印象が先に立ってしまったが、イラストレーターである主人公の創作に対する悩みも含めて、著者自身の切実さのようなものが感じられ、だんだんと引き込まれた。

米朝ばなし

桂米朝「米朝ばなし」

落語に縁のある上方の土地を歩く。地図に道頓堀五座が書かれているなど、昔の面影がまだぎりぎり残っていた時代の文章で、二重に興味深い。

文中で現代として描かれている光景も既に過ぎ去った過去となっている。土地や時代背景を踏まえて落語に触れると、気の利いたサゲや言葉遊びの豊穣さに驚かされる。

一方で、それらの面白さが現代ではほとんど通じないだろうことが寂しくもある。「浅草と深草なら少々の違い」くらいならまだしも、「天神さんは紙幣がきらい」「夜のこぶは見逃しがならん」などぱっと理解できる人がどのくらいいるのだろう。

世界しあわせ紀行

エリック・ワイナー「世界しあわせ紀行」

幸福の探求は不幸の主たる原因の一つ。それを承知で著者は“幸せな土地”を求める旅に出る。

GNHを掲げるブータン、税金の無いカタール、極寒のアイスランド、マイペンライのタイ、インドのアシュラム……

幸せな人と不幸な人を分ける境はどこにあるのだろう。そしてそれに社会制度や文化、風土が影響を与えるのだろうか。そもそも幸福こそが最も価値あるものなのか。
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龍秘御天歌

村田喜代子「龍秘御天歌」

慶長の役で朝鮮から日本に渡った陶工一族の物語。

日本で苗字帯刀を許されるほど重用され、偉大な職人としての地位を築いた長の死に、村を挙げての盛大な葬儀の準備が進む。その日本式の弔いに対し、百婆と呼ばれる妻はクニの弔いにこだわる。これからも日本で生きていかないといけない長の弟と息子たちは、百婆と住職や町役との間で複雑な立場に追い込まれる。
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日本の舞踊

渡辺保「日本の舞踊」

舞踊という最も言葉で表現しにくい芸能をいかに語るか。

著者は「身体の声」という言葉を使う。これだけでは色々な文脈で使われる表現のため、多様に理解できてしまうが、その声とは何かを、井上八千代や友枝喜久夫ら名人の芸を比較して丁寧に説明する。
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