渡辺保「歌舞伎 型の真髄」
動きから衣装、化粧、舞台美術、さらには役の内面まで歌舞伎の演目には複数の型がある。近代の舞台芸術なら演出家に従属する要素が、個々の役者に備わるのが面白い。だからこそ、歴代の役者の解釈と美意識の膨大な蓄積を芸として抱えることができる。
さまざまな役の型の違いを比較し、その型が生まれた経緯が分かる教科書のような本だが、歌舞伎初心者の自分はここに出てくる演目の3分の1もまだ見たことがないため、具体的な場面が浮かばないのが残念。
読んだ本の記録。
平瀬礼太「彫刻と戦争の近代」
戦時の彫刻作品について美術史で語られることはほとんどないが、実際には彫塑関係の展覧会は活況を示していたという。芸術家の戦争協力というだけの論なら新しくはないが、美術品や公共のシンボルなど位置づけがあいまいな彫刻からの視点はなかなか新鮮。
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エリック・ワイナー「世界しあわせ紀行」
幸福の探求は不幸の主たる原因の一つ。それを承知で著者は“幸せな土地”を求める旅に出る。
GNHを掲げるブータン、税金の無いカタール、極寒のアイスランド、マイペンライのタイ、インドのアシュラム……
幸せな人と不幸な人を分ける境はどこにあるのだろう。そしてそれに社会制度や文化、風土が影響を与えるのだろうか。そもそも幸福こそが最も価値あるものなのか。
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村田喜代子「龍秘御天歌」
慶長の役で朝鮮から日本に渡った陶工一族の物語。
日本で苗字帯刀を許されるほど重用され、偉大な職人としての地位を築いた長の死に、村を挙げての盛大な葬儀の準備が進む。その日本式の弔いに対し、百婆と呼ばれる妻はクニの弔いにこだわる。これからも日本で生きていかないといけない長の弟と息子たちは、百婆と住職や町役との間で複雑な立場に追い込まれる。
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渡辺保「日本の舞踊」
舞踊という最も言葉で表現しにくい芸能をいかに語るか。
著者は「身体の声」という言葉を使う。これだけでは色々な文脈で使われる表現のため、多様に理解できてしまうが、その声とは何かを、井上八千代や友枝喜久夫ら名人の芸を比較して丁寧に説明する。
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