河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙

河北新報社「河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙」

あの時、宮城や福島にいた記者が何を感じ、どう動いたのか。取材する記者一人一人も、人間で、被災者で、でも取材者と取材対象者は決して同じ立場ではない。

少しでも多くの人に読んで、自分ならどうするか想像してもらいたい記録。

「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか

開沼博「『フクシマ』論 原子力ムラはなぜ生まれたのか」

地方が自発的、自動的に中央に服従し、原発を抱きしめていく歴史。それを説明するには財政だけでなく、文化的、心情的な側面にも触れなくてはならない。原発推進派も反対派も語ることがない立地地域の実情を丁寧に追っている。

福島、それも原発に近い地域に住んだことがある人間なら、ここに書かれていることは当たり前で目新しさは無い。原発事故前に書かれた修士論文がもとで、地方を「植民地」と位置づける考察も単純すぎる気がするが、今だからこそ多くの人に知ってもらいたい現実。

倒壊する巨塔 ―アルカイダと「9・11」への道

ローレンス・ライト「倒壊する巨塔 ―アルカイダと『9・11』への道」

アルカイダのトップ、ビンラディンとザワヒリの人生を幼年時代から追いながら、同時多発テロに至る過程を描く。

イスラム原理主義の誕生から、土建屋の空虚な熱情が先鋭化し、ジハードとしてアメリカに標的を絞るまで。人物に焦点を当てることでハンチントンの「文明の衝突」のような粗雑な理解とは対照的な9・11への道を浮き彫りにしている。
“倒壊する巨塔 ―アルカイダと「9・11」への道” の続きを読む

「本屋」は死なない

石橋毅史「『本屋』は死なない」

全国のユニークな書店員の話を聞いて回ったドキュメント。著者は専門紙出身だけあって、出版流通業界の現状や課題に触れつつ、電子書籍に無限の可能性を見たり、紙に文化の本質を置いたりということはない。

本屋が出版文化の興隆に果たした役割がよく分かるし、棚作りの工夫など、本屋好きにとっては読み物としても大変面白い。
“「本屋」は死なない” の続きを読む

M/D ―マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究

菊地成孔、大谷能生「M/D ―マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究」

圧倒的な分量。講義録だけど、明らかに加筆しまくったと分かる、くどく(ほめ言葉)、濃密な文章。

アンビヴァレンス、ミスティフィカシオン、戯画的なポップさ、革命家ではなくモードチェンジャー、スターへの憧れ、飽きっぽさ。
“M/D ―マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究” の続きを読む

一億三千万人のための小説教室

高橋源一郎「一億三千万人のための小説教室」

「教室」の形をとった高橋源一郎流の文学論。ことばを楽しむこと、自分なりの世界の見方を掴まえること、まねること。

新書ということもあって、あっさり気味だけど、本質的。真摯な作家だと思う。

至福千年

石川淳「至福千年」

開国と攘夷に揺れる幕末の江戸で聖教の楽園を築くため、暗闘する千年会。破天荒な人物、自在な展開に最後まで引き込まれる。何よりも古文を思わせる無駄のない流れるような文体。美しい。