ハムレット

シェイクスピア「ハムレット」

堂々巡りをする復讐者、ハムレット。今読むと悲劇というより一種の不条理劇という印象が強く、安易な共感は寄せ付けない。長い独白で表現されるハムレットの心境、登場人物のほとんどが一気に死んでいく終盤の構成も圧巻。

きもの

幸田文「きもの」

明治の末に東京の下町に生れたるつ子。着物の肌触りとともに残った数々の記憶。祖母の姿勢に生きていく上でのたしなみや気構えを学び、姉たちの姿から成長して人が変わっていくことの、両親の姿から生きることの悲哀を感じ、少しずつ成長していく。

何をどう着るかは、どう生きるかの現れでもある。「崩れ」でも感じたが、幸田文の感性の鋭さと、それを文章で表現する際の瑞々しさは全く古さや老いを感じさせない。江戸っ子の気風のようなものかもしれない。終盤の関東大震災の描写もとても現実感を持って迫ってくる。

脳はこんなに悩ましい

池谷裕二、中村うさぎ「脳はこんなに悩ましい」

脳の話というより、脳を糸口に遺伝子や進化、心のあり方など、色々な話を行ったり来たり。つまみ食い的な内容だけど、興味深いエピソードが山盛りで読み応えあり。池谷裕二と中村うさぎは一見不思議な組み合わせだけど、話がかなりかみ合っていてレベルの高い対談本。下ネタも思ったほど無い。

ヘンリー四世

シェイクスピア「ヘンリー四世」

英国版“大河ドラマ”で、物語そのものは少し冗長に感じるものの、過剰に饒舌なセリフのかけあいが魅力的。ダメ騎士フォルスタッフを描くために物語がある。特に一見蛇足にも思える第2部の存在にその印象が強い。

一の糸

有吉佐和子「一の糸」

芸道一筋に生きた文楽三味線弾きの露沢徳兵衛と、その後添えとして生涯をささげた酒屋の箱入り娘の茜の一生を、敗戦、文楽会の分裂、鶴澤清六と山城少掾の決別など、現実の出来事をモデルに交え描いた長篇小説。
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オセロー

シェイクスピア「オセロー」

妻の不貞を疑い、嫉妬に狂うオセロー。

最もコントロール出来ない感情として、“嫉妬”が物語の中心にあるが、人種や親子、友人、主従……など人間関係のあらゆる問題が詰まっている。だからこそ世界中で何度も何度も再演され続けているのだろう。

「嫉妬というのはひとりで種をはらんでひとりで生まれる化け物です」

セールスマンの死

アーサー・ミラー「セールスマンの死」

働いて、働いて、その先に何があるのか。子への過度な期待は行き場を無くし、職とともに自らのアイデンティティも失われる。夢の終わりを受け止められず、人生が空虚であると認めたくない故に追い込まれてゆく老セールスマン。

これが60年以上前の作品ということに驚く。書かれた時点よりも、世界の変化とともに普遍性を増してきたと思える作品。一方で、これが過去の社会を描いたものと捉えられるような世界になってほしいとも思う。

カリギュラ

アルベール・カミュ「カリギュラ」

「異邦人」「シーシュポスの神話」とともにカミュの不条理三部作の一つに数えられる作品。

“ペスト”として振る舞う皇帝カリギュラ。自由や生の意味を論理的に追い求めることは狂気と紙一重ということが、強烈な印象とともに突き刺さってくる。

「私は論理に従うことに決めた。私には権力がある。論理がどれほど高くつくか、おまえたちはみることになるだろう」

「人間の本当の苦しみはそんな軽薄なものじゃない。本当の苦しみは、苦悩もまた永続しない、という事実に気づくことだ。苦悩ですら、意味を奪われている」