飢餓浄土

石井光太「飢餓浄土」

亡霊、祈り、祟り…貧困や戦争の中で生活する人々の見る幻。著者らしい人間らしさの記録。

最近多作な著者だが、徐々に文章から著者自身の悩みが消え、描写が小説のように饒舌になってきた印象を受ける。初期の作品にあった主観的な描写に惹かれた身にとっては少し寂しく感じる。

原子炉を眠らせ、太陽を呼び覚ませ

森永晴彦「原子炉を眠らせ、太陽を呼び覚ませ」

戦時中から原子核物理学に携わってきた研究者の14年前の提言。原子力の平和利用に理解を示しつつ、脱原発の道を探る。

太陽光という結論はいまや理想主義的すぎる気もするが、日本の原子力防災の甘さの指摘など、JCO事故以前の執筆とは思えない。

マタギ 矛盾なき労働と食文化

田中康弘「マタギ 矛盾なき労働と食文化」

現代の、そして最後の世代になるだろうマタギの記録。シンプルだけど、誠実な視線。

熊を狩り、釣りをし、山菜を採って山に生きていく。マタギは猟師のことではなく、ひとつの生き方。

ハーモニー

伊藤計劃「ハーモニー」

フーコーの生権力なんかを念頭に、単純なディストピアではなく、読み手の世界観を問う作品。

設定の細かさの一方、テーマはやや消化不良な気もする。理詰めの作家だけに、生きて長編を書き続けていれば相当なものを残していたかもしれないのが残念でならない。

秋葉原事件 ―加藤智大の軌跡

中島岳志「秋葉原事件―加藤智大の軌跡」

加藤の25年を丁寧にたどった一冊。現実に友人がいて交遊的な面もあったのに、少しずつ孤独の袋小路に入っていく。理解できる面もある一方、なぜ一歩を踏み出したのかは結局わからない。

まだ発生から3年だが、あれほどの衝撃をもった事件でさえ、多くの事件の中の一つになって忘れられつつある。

絵巻物に見る日本庶民生活誌

宮本常一「絵巻物に見る日本庶民生活誌」

中世以前の絵巻物の隅に描かれた民衆の姿を通じ、当時の生活を読み取っていく。

仮説をつなげ、語られなかった歴史をよみがえらせる手法は後に網野善彦らの研究につながっていった。かなり面白く刺激的な一冊だが、印刷が不鮮明なのに加え、絵の収録が不十分なのが残念。新書ではなく大型本で読みたい。

村上春樹 雑文集

村上春樹「雑文集」

タイトル通り雑多な文章の寄せ集めだけど、どれも中身があって筋が通っている。評価は様々だが、同時代の作家では最も前向きに文章の力を信じている人だろう。

紫苑物語

石川淳「紫苑物語」

美文で知られる石川淳だが、この時期の文章が一番美しいかもしれない。日本語の小説としては一つの完成形だろう。物語があってそれを伝えるために言葉があるのではなく、言葉と物語が一体となった文章を書く希有な作家。

無縁・公界・楽 ―日本中世の自由と平和

網野善彦「無縁・公界・楽 ―日本中世の自由と平和」

中世以前の日本にあった今とは違う「自由」の形。論文として見れば根拠の弱さが目立つかもしれないが、問おうとしたものは非常に大きい。農業民主体の静的な日本史からの転換。刺激的な1冊。

ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか

シュロモーサンド「ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか」

“ユダヤ人”の根幹を成す離散を否定する「追放の発明」と題した章が強烈。シオニストは、改宗で各地に増えた「ユダヤ教徒」を聖地を追われた「ユダヤ民族」とすり替え、歴史を創作した。