あやとりの記

石牟礼道子「あやとりの記」

乞食、隠亡、孤児……“すこし神さまになりかけて”いるひとたちと過ごす、みっちんの四季。

ストーリーらしいストーリーはないけど、一瞬一瞬が魅力にあふれている。この人ほど言霊という言葉が似合う作家はいない。後半の「迫んたぁまになりたい」が胸を打つ。

ヤノマミ

国分拓「ヤノマミ」

南米アマゾンの先住民、ヤノマミ。

生まれた子を精霊としてそのまま天に返す場面に衝撃を受ける。死生観などの価値観は、想像ができないほど我々日本人と隔たっている。それでも同じ様な感情を抱く。それが人らしさなのだろう。
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根津権現裏

藤澤清造「根津権現裏」

自殺した友人を巡る物語。「等身大」と言ったら安っぽく響くが、同じ私小説でも安吾のように突き抜けた駄目さではなく、百閒のようなユーモアも無い。ただその地味さが逆に現実味があって、共感できる。

西村賢太が再び光を当てるまで、ほぼ忘れられかけていた作品なのに古さを感じない。

私家版 差別語辞典

上原善広「私家版 差別語辞典」

言葉がどう規制され、差別語となるのか。この本は辞典と言うよりエッセイに近いけど、一人でも多くの人に知ってもらいたい内容。

メディアはどうしても無難な表現を使わざるを得ないが、過剰な自粛が言葉を消すことはあってはならない。不適切な言葉は「歴史上の言葉」に移行させるべきで、無理に葬れば、悪意は形を変えて再び姿を現すだろう。

エレンディラ

ガブリエル・ガルシア=マルケス「エレンディラ」

天使や幽霊船など、あり得ないようなことが自然なこととして起こり、物語が進んでいく。でも世界の見え方としては紛れもない“現実”。

物語をマジックリアリズムとリアリズムに分けて考えるのは、そのどちらに属する作品をも矮小化することになる。

冥途・旅順入城式

内田百閒「冥途・旅順入城式」

悪夢。悪夢のような、ではなく、本当に夜みる夢のように不思議で、とらえどころのない話。漠然とした不安や焦燥感、恐怖、執着心が形を変え続いていく。

漱石の「夢十夜」の雰囲気が濃いが、もっと向こうの世界に近い感じ。処女作品集とは思えない。

わたしの旅に何をする。

宮田珠己「わたしの旅に何をする。」

活字で笑うことはめったにないけど、この人の文章は思わず吹き出してしまう。内田百閒の「阿房列車」的な面白さ。

冒頭から「会社なんか今すぐ辞めてやる、そうだ、今すぐにだ、という強い信念を十年近く持ち続けた意志の堅さが自慢である」とのあほらしさ。

池澤夏樹の世界文学リミックス

「池澤夏樹の世界文学リミックス」

古今東西の文学作品を軽妙な文章で渡り歩くエッセイ集。タイトルはちょっとださいけど、大変面白い。とにかく本を読みたくなる。

世界には数え切れないほど多様な物語があるし、読み切れないほど多くの本がある時代に生まれたことを幸せに思う。

幻獣ムベンベを追え

高野秀行「幻獣ムベンベを追え」

コンゴ奥地に生息するというモケーレ・ムベンベ。“誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く”著者の早大探検部時代の原点。

無謀だからこそ切り開ける世界がある。

センセイの鞄

川上弘美「センセイの鞄」

老境を迎えたセンセイとの、気恥ずかしくなってしまうような恋愛小説。

初期のシュールな作品が好きで高校のころよく読んだけど、それらの作品群からすれば驚くほどシンプル。でも静かな空気はどこか似ている。読み終わって、素直にいいよね、って感じられる一冊。